書評『習近平帝国の暗号2035』、中国を見る視点を得られる一冊

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日本の中国に対する報道は、一方的に流れる傾向があります。そんな中で、冷静に現在及び今後の中国を見る視点を得るために『習近平帝国の暗号2035』はオススメの一冊。

圧倒的な権力を確立したと言われている習近平ですが、その権力基盤は相対的なものと分かります。ハードカバー390ページの大作ですが、読み応え抜群です。

習近平が権力を握る過程を解説

『習近平帝国の暗号2035』は習近平(敬称語略)が最高指導者になった後、どのようにして現在の圧倒的な権力を築いたのか、その過程を解説した一冊。

形の上で最高権力者となっても、実は様々な先輩や様々な勢力が組織の中で勢力争いをしていて、実は行使できる権力は限定的、というのは洋の東西に限らず、企業でも政府でも組織ではよくあるお話です。

実は中国も同様で、習近平が最高権力者となった段階で、先代・先々代のトップがご隠居として存在しており、自身の権力の範囲は限定的。そこを反腐敗運動を展開して、自らの権力基盤を確立していく姿が克明に描かれています。

習近平といえども、最初から皇帝ではなかった、という部分が分かり、単なる一面では捉えることができない、中国の現代史の一つの側面を垣間見ることができます。

現在の習近平の優位も相対的なもの

中国の皇帝陛下として扱われることもある習近平ですが、確かに国内の権力基盤は盤石なものになったようですが、それでもその権力は絶対的というより相対的優位なものと考えられます。

その昔の自民党の派閥政治みたいなもので、絶対的優位な派閥=竹下派は存在していても、派閥毎に物事決まっている、といったような。

先代の胡錦涛、先々代の江沢民もまだ健在ですし、長老の方々も多く存在。相対的には圧倒的に優位な立場を築いたと言える習近平ですが、その立場は絶対的なものではないため、何かあればひっくり返される可能性は否定できない印象です。

そして目下の所、『習近平帝国の暗号2035』執筆時には影も形もなかった米中貿易摩擦問題が浮上しています。

内政問題がなによりも優勢される中国、と本書にありましたが、米中貿易摩擦が国内問題に切り替わる兆しが出始めており、これまで習近平に抑え込まれていた勢力が、勢力を回復する千載一遇のチャンスとも言えます。

習近平はこのまま過去の慣例を破り3期目の人気に突入するのでは、という憶測もありますが、米中貿易摩擦問題浮上を契機にこれまでの国内のパワーバランスに変化の兆しが生じており、まだ3期目突入確定とは言えないのではないか、そんな印象を持つに至りました。

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現在及び今後の中国を見る視点を得られる

日本の中国に対する報道は極端な報道が多い、とどこかで見ましたが、本書を読んでその思いを新たにしました。他所の国の事なので、やむを得ない面がありますが、物事を冷静に捉える努力は必要であり、その面では必要以上に習近平政権を強大視したり、見下したりするのはあかん訳です。

習近平は相対的には圧倒的に優位な立場を得たものの、その優位性は相対性の下にある、という認識で中国を見ると、現在の対外強硬路線も一帯一路路線も要は習近平の考えの下で行われている訳で、今後国内事情でひっくり返ってしまう可能性もあります。

米中貿易摩擦が既に激化している中、今後も中国に関する報道に様々な形で触れる事があると予想されますが、中国も決して一枚岩じゃないのね・・・、という視点は本書を読んでおくと、理解できるのではないでしょうか。

昔とあまり変わっていない中国の権力闘争

管理人、中国の歴史が大好きで、学生時代は中国の各時代の歴史の本を読み漁ってます。そして『習近平帝国の暗号2035』を読んで思ったのは、中国の権力闘争って、昔と殆ど変わってない・・・、という点。

本当の意味で生きるか死ぬかの権力闘争を繰り返してきた中国の歴史、現在も革命といったような大規模な闘争には至らずとも、内部で激烈な権力闘争が行われているようです。日本の政治というより、民主主義国の権力闘争がかわいく見えます。

ただしゴリゴリの中国権力闘争の歴史と比べて違うのは、敗者の命までは奪っていない点(自殺は除く)。殆どの場合、終身刑です。中国の歴史を振り返れば、権力闘争の敗者は死罪が相場なので、その面ではさすがに中国と言えども近代化しているかと。

しかし宋の時代は、権力闘争の敗北者であっても死罪にはしない、という初代皇帝が定めたルールの下(島流しが最高刑、海南島に流された蘇東坡が代表)、概ねルール通りに権力闘争がされていた時代があったので、4000年の長い歴史を持つ中国では、特段目新しい状態ではない、という部分もまた中国らしいかと。

いずれにしても、中国では表に出てこないだけで、激烈な権力闘争が行われているのは間違いなく、習近平政権といえども安泰ではない、とは言えるかと。

まとめ

既に中国の景気減速が始まっていた中で、米中貿易摩擦の火ぶたが切って落とされ、中国を巡る環境は今後大きな変化が生じる可能性があります。

実際に習近平政権下で冷遇されていた李克強首相の復権を報じるメディアも出ています。また習近平政権が世界で進める一帯一路構想も、パキスタンで破綻の可能性も生じているようです。

既に経済力では日本を上回っている中国ですが、日本は隣国として否応なくお付き合いする必要があります。

今後の中国に対する報道を冷静に見る視点を得るためにも、ハードカバー390ページの大作ですが『習近平帝国の暗号2035』オススメです。

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