9月下旬に突如市場の話題となったスイスのグレンコア社の経営危機。市場関係者の間では話題になりましたが、一般のニュースではそれ程は話題になりませんでした。
ただしその規模が図抜けているグレンコア。嵐は一旦去りましたが、資源価格下落のトレンドに変化は無く、いつ再び嵐が到来してもおかしくは無い状態。
すわエンロン事件の再来か?、と一瞬市場が身構えた9月下旬のグレンコア・ショック。そもそもグレンコアがどんな会社か、今後の勉強を兼ねて調べてみました。
概要
スイス企業で最大級の規模を誇るグレンコア
資源の乏しい日本では、資源会社と言われても正直な所はピンときません。まぁ資源が無いので仕方ないのですが、世界を見渡せば石油会社から始まって、鉄鉱石、石炭等様々な資源会社が存在しています。
今回取り上げるのは資源会社の大手の1社、グレンコア。本社はスイスです。グレンコアは銅や亜鉛の取引で5割前後のシェアを握り、自前で鉱山まで保有する巨大企業です。
グレンコアは、米国政府相手に相場をはって伝説の商品トレーダーと言われたマーク・リッチ氏が設立に関与した会社として有名。マーク・リッチ氏は米国でトレーダーとして活躍するも、米国と敵対するイラン政府の原油を扱う等、米国検察から起訴され、スイスを出国することなく2013年死去します。
そのグレンコア、スイスの会社としてはネスレを超えるスイス最大級の企業。ネスレはキットカット等でよく名前も知られていますが、グレンコアはネスレのように日本では名前を知られていませんが、スイスでは知らぬ者のいない巨大企業です。
そしてどれだけデカイ会社かと言えば、グレンコアの2014年12月期売上高2,210億ドル、日本円にして約27兆円!
27兆円の売上と言われてもイメージが沸きませんが、日本で資源会社として名前の出る三菱商事は売上高7.6兆円、三井物産5.4兆円(いずれも2015/3期)ということを考えると、グレンコアのデカサが分かろうかと言うものです。
日本では一般的な知名度は殆どないものの、スイスを代表する世界企業、そして売上高27兆円オーバーで、銅や亜鉛の世界取引の5割を握る会社、と言えば、そりゃスゴイ会社だね、となりますね。そしてこのグレンコアが経営破たんの危機、ともあれば、そりゃマーケットは大騒ぎになってもおかしくはありません。
グレンコアの株価
グレンコアはロンドン市場に上場しています。そのグレンコアの株価(週足)は下記のようになっています。
https://www.tradingview.com/x/QO0M6Fkk/
株価は6月以降、まさにつるべ落とし状態。300ポイント付近あったものがグレンコア・ショック最後の局面では100ポイント割れ。週足ではヒゲを付けて一旦反転しましたが、現在再び100ポイントが割れに突入しています。
経営の内容はともかくとして、6月以降で株価は約1/3なので、株価はグレンコア社の経営にアラームを鳴らしているのは間違いありません。
え?株価について分析しろ?もうグレンコアの株価は最安値を更新し続けているので、引っかかる価格帯が無いんです。ただし1つ言えるのは、グレンコア・ショックの際に着けた最安値を下回ることが確定すると、再度下落が開始され落ち着き所のよい株価まで下落の可能性があります。
グレンコアの問題点
グレンコアの問題、それは一言で借金が多すぎる、という点に尽きます。
2013年に鉱山会社のエクストラータを買収。更にカナダの穀物商社も買収する等、買収を繰り返し世界に名だたる資源会社にとなったグレンコアですが、買収を繰り返した結果、借入金は300億ドル(約3.7兆円)まで膨らむことに。
9月のグレンコア・ショックは、商品の価格が下がっているのにそんな借金返せるの?、と周りの皆が思い始めた、ということ。
グレンコアも黙って指をくわえて事態を見守っている訳ではなく、2016年末までに借入金を100億ドル以上削減すると発表しています。その施策として、配当の見送り、新株の発行、亜鉛の減産、銅の生産一時中止、資産売却等を繰り出し、今まさに借金返済に奔走している所となっています。
けど借金の多さなら、10兆円をオーバーしているソフトバンクの勝ちだったりします。
ソフトバンクの場合、国内携帯電話事業と言う事業の柱がしっかり稼いでいる+アリババの含み益があるので大きく問題視されていませんが、一歩間違ったらどうなるか、少々怖い部分があります。
グレンコアが破綻の場合の日本への影響、メガバンクに貸し倒れが発生の見込み
グレンコアが仮に破綻した場合、日本への影響はどうなるのか?株価が下がる等の間接的な影響はさておき、直接的な影響は?この辺り「日経ヴェリタス(2015/11/15)」はメガバンクへの影響を懸念しています。
グレンコアが破綻の場合、直撃を受けるのは、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3行のようです。3行合わせて30億ドル=約3,800億円。まぁ各メガバンクの屋台骨を揺るがす程の衝撃ではありません。
ただし海外の融資を積極化させてきた国内のメガバンク、資源会社にも多くの融資を行っており、影響がグレンコアに留まらないと、実は他所の国の出来事、と言っていられなくなる可能性があります。
現在の所、グレンコアは借入金の比率が高い、ということで問題となっています。しかし資源価格の下落は平等に資源会社に襲い掛かってきますので、さらなる資源価格の下落が発生し市場の不安が体力の低下した他の資源会社にも襲い掛かると、国内のメガバンク3行が海外で足元をすくわれることもありえます。(日経ヴェリタスによると、3メガバンクの資源関係投融資の残高は今年3月時点で15兆円、引当は殆ど積んでいないとのこと)
グレンコアは不思議の国スイスの企業
スイスという国のイメージ、小さいアルプスの山々に囲まれた技術力の高い国、というキレイなイメージが一般的。ただし、秘密主義で知られる金融機関が存在(今は随分秘密主義はなくなったようですが)、というイメージもあります。
実はスイスは多くの資源会社が存在する、という側面を有しています。そしてそれらの資源会社は未上場で、秘密のヴェールに包まれています。そもそも、スイスに資源会社が多いなんて、殆ど知られていません。
為替の世界でもスイス勢は隠然たる影響力を有することで知られていますが、どうやら資源の世界も為替に似た構図となっています。金融機関の秘密主義、為替そして資源と、このあたり不思議の国スイスの隠れた顔が現れています。
そしてグレンコアの事情で言えば、創業メンバーが米国政府から起訴され遂に帰国がかなわなかったマーク・リッチ氏、そして上場前はアフリカで違法取引にまで手を出していた噂がある等、不思議の国スイスを体現している会社とも言えます。
噂で買って事実で売る、ショート=売りの場合はその逆ですが、スイス及びグレンコアの秘密のヴェールが、借金問題に加えて、問題を大きくしている面は否定できません。
まとめ
原油価格や鉄鉱石等の商品価格の下落、反転の兆しが見えない中、グレンコアだけでなく資源会社の経営は厳しい時期を迎えています。石油会社の危機については、当サイトでも下記で記事にしています。
今回のグレンコアはまさに、商品価格下落という嵐の中にいる存在。積荷=借金の重さで9月下旬に転覆が噂されたものが、何とか持ちこたえて、今積荷を一生懸命海に放り投げている所です。
資源会社の苦境は、何も海外の会社ばかりではなく、日本でも石油元売り会社の再編が発生する等、資源価格の下落は世界中の資源にかかわる会社に影響を与えています。
果たしてグレン・ショックの再来はあるのか?そしてその時、日本への影響はいかに?
商品価格の反転がまだナカナカ見えない中、資源関連の会社及びそれら会社の株価には、まだ当分冬の時代が続くことになりそうです。