イギリス・メイ首相が思い切って3年前倒しを決定し、6月8日に予定されている総選挙。当初は与党・保守党の圧勝が予想されていましたが、何と予想外に労働党が大健闘。
Brexitで世界をアッと言わせたイギリス国民、2017年の総選挙でも労働党が踏ん張り、世界をアッと言わせてしまうのでしょうか。最新の選挙情勢を解説いたします。
概要
2017年イギリスの総選挙は6月8日投票
イギリスがEU離脱をする方針は既に昨年の国民投票で決定していますが、現在のメイ首相は国民投票時のキャメロン首相の後任の首相で選挙を経験していません。Brexitは決まったものの、党内外に様々な意見のあるBrexitであり、メイ首相は主導権確保のために総選挙の前倒しを決定。
イギリスは首相に国会の解散権はないため、首相が”解散”と言っても、ハイそうですか、とはならないのですが、今回野党の労働党は選挙を受けて立ちました。
ただね、客観的に外野から見ると、どうも争点がピンとこない今回のイギリスの選挙。労働党は党首のジェレミー・コービン氏がゴリゴリの左派の運動家で、一般の人気が無いため、争点以前に与党・保守党の圧勝が予想されていました。
ところがやはり予想通りにいかないのが選挙の面白い所。選挙マニアな管理人、意外や意外な労働党の健闘は注目せざるを得ません。
現在の各政党の議席数
現在のイギリス庶民院の各政党の議席は下記となっています。
・保守党 331議席(50.9%)
・労働党 232議席(35.6%)
・スコットランド国民党 56議席(8.6%)
・その他 31議席(4.7%)
・総合計 650議席
現在イギリス国会(庶民院)において与党・保守党の議席は331議席。そして全650議席に占める比率は50.9%。国会の過半数を占めており、基本的には自分の所で何でも決められる状況となっています。尚、前回の2015年以前は保守党は自由民主党と連合を組むことで与党の座を維持していましたが、2015年の総選挙で自由民主党が惨敗した結果、単独与党となっています。
とは言え、総議席数に占める比率が50.9%であり党内から10人でも造反者が出てしまうと、保守党は与党としての機能を失います。国内を二分したBrexitの問題、EUから出ていくと決まったものの簡単に話が進むわけにはいかず、特にEU離脱に反対していた保守党内は今もBrexitの方法論で意見が分かれています。
そんなことから、EUから出ていくのは決まったければそこから先の具体的なことが今のままでは進まない・・・、ということで、メイ首相が解散総選挙を決意したのは容易に想像がつきます。イギリスの国会は、しばしば身内の議員の反乱がおきます。よって与党の党首=首相であっても、党内意見に配慮しないと、寝首をかかれる可能性があります。有名な所では、少々古いですがサッチャー首相が辞任に追い込まれたのは、身内の反乱によるものです。
よって、野党・労働党が変なオッサンの下でまとまり切れていない中、自らの主導権確保のために選挙に打って出たメイ首相の考えは、極めて合理的と言えます。基本的に本人あまりやりたくないEU離脱手続きを、パパッと進めるために身内を固めようとした訳です。
当初は、メイ首相のシナリオ通りに事が進むと各方面で予想されており、保守党の圧勝が予想されていました。ところが驚異の粘り腰、と言いますか、さすが二大政党の伝統の国と言いますか、労働党が予想外の健闘を見せているのが現在の状況。
労働党の現在
労働党と言えば、長くブレア元首相が率いてきた党として知られています。ブレア時代は新自由主義を掲げ、それまでの労働党のイメージを一変。しかしながらブレア首相の後任のブラウン首相は2010年の総選挙で保守党に敗北し、与党の座を降ります。
そこから先、労働党の迷走が始まります。選挙に敗れたゴードン首相の後任となったのは、若手のミリバント氏。党再建の期待が高く、2015年の総選挙前には保守党と支持率で拮抗するまで党勢回復を果たしましたが、何とフタを開けてみると2015年の総選挙で、労働党はそれまで地盤となっていたスコットランドの選挙区の議席を殆どスコットランド国民党に奪われるという事態が勃発。労働党はスコットランドで、完全に活動基盤を喪失することになってしまいます。
総議席数も258→232議席に減らしてしまったため、ミリバント氏は選挙の責任をとって辞任しています。
そして次の労働党の党首になったのが、現在のジェレミー・コービン氏です。
ゴリゴリの左派活動家ジェレミー・コービン氏
現在の労働党党首のジェレミー・コービン氏はゴリゴリの左派活動家の68歳。68歳の筋金入りの活動家です。
コービンはウィルトシャーのチッペナム出身であり、短期間北ロンドン工科学校に在籍した。全国公務員組合や全国仕立被服労働者組合で働いた後、1974年にハーリンゲイ・ロンドン特別区議会議員に選出され、ここからコービンの政治家としてのキャリアがはじまった。~みずから認める民主社会主義者であり、コービンが主張している政策には公共事業や鉄道の再国有化、炭鉱再開、企業の税金逃れ取り締まり強化、大学の学費負担をなくして学生補助金を再開させること、非核化とトライデント核兵器プログラムの中止、インフラ及び再生可能エネルギープロジェクトへの資金を供出する 人々のための量的金融緩和政策、デイヴィッド・キャメロン政権が2010年以降行ってきた公共部門と福祉への予算カットを元に戻すことなどが含まれている。(wikipedia)
労働党が先祖返りしたような感のあるコービン氏ですが、とは言え2015年9月の労働党の党首選で勝利をおさめ党首の座についています。尚、党首選の際に、ブレア元首相がコービンが党首なんぞになったらえらいことになる、と必死に当選阻止に動きましたがコービン勝利の流れは止められず。
ブレア氏がよかれと思った新自由主義の脱労働組合路線ですが、階級社会が色濃く残るイギリスではその恩恵を被ることができなかった層が多かったのも事実で、労働党は完全に先祖返りを始めます。更にそれまでの脱労働組合路線の方も労働党内にはいる訳で、コービン氏の党首当選は深刻な党内対立を招き、労働党は機能不全に陥ったかに見えました。実際EU離脱を問う国民投票の際、党としてはEU残留を決定するも、コービン氏自身は極めてEU残留に懐疑的で殆ど何もしていません。その結果、EU残留派・離脱派双方から、労働党は何やってんだ・・・、と言われる始末。伝統ある労働党もここに遂に寿命が来たかと思われていました。
労働党が支持率で保守党に5ポイント差にまで迫る
EU離脱を問う国民投票の際のだらしなさと、党内争いに完全に国民から見放された感のあった労働党。今回の選挙も、圧倒的敗北が予想されていました。世論調査でも、保守党に対し25%という大差をつけられて、これは終わった・・・、という雰囲気でした。
ところが何とここにきて支持率で保守党に5%と肉薄。
「深読み!イギリス総選挙 カネ持ち攻撃で強硬左派ジェレミー・コービンは復活した」
さすがコービン氏、歴戦の闘志と言わざるを得ません。当然、貧富の差の拡大が背景にある訳ですが、コービン氏の人心掌握術は見事と言うしか他ありません。
政策としては、エネルギー、鉄道、郵便の各サービスを国有化し更に所得税の増税、という完全に労働党の先祖返り的政策ですが、それで国民の支持を受けている訳です。
管理人が思ったのは、やはりBrexitを決めた原動力は伊達ではない、ということ。EU離脱を問う国民投票、保守党の支持層及び労働党のエリート層はEU残留を支持していたのをひっくり返したのは、庶民層の力。ロンドン以外の地域の多くで、Brexitが支持されたのはその証。
実際にコービン氏は実力及び支持者があったからこそ労働党の党首な訳で、ゴリゴリの左派のコービン氏を支持するような層はイギリスでは相当数存在している、と言うことです。と、考えれば事前の予想に反する労働党の健闘、ありえない話ではありません。
ただしそれでも、労働党が保守党に勝利する、と言う所にまでは至らないでしょう。流石にコービン氏はトンガリ過ぎてます。。。まぁ、労働党が勝利して、再びポンドが大暴落、的な相場を見たいような気もしますが。
何も変わらない可能性があるイギリスの総選挙
まさかの労働党の健闘に驚いているのは、メイ首相ではないかと。何せ労働党はアウトオブ眼中、だったハズ。もういかに保守党の獲得議席を上積みして、自らの政権基盤を安定させるか、という点のみ考えていたと思われます。
とは言え保守党の勝利は固いとしても、結局終わってみれば、保守党の議席の獲得比率は今とそんなに変わらない、何て可能性が出てきました。となると、一体何のための選挙だったのか・・・、という話になってきます。
労働党の思わぬ検討に、大山鳴動して鼠一匹、という可能性も無きにしも非ず。下記の現在の議席がどのように変化するのかに要注目です。
・保守党 331議席(50.9%)
・労働党 232議席(35.6%)
・スコットランド国民党 56議席(8.6%)
・その他 31議席(4.7%)
・総合計 650議席
まとめ
イギリスの総選挙の情勢を見ていると、やはり選挙はフタを開けてみないと分からないもんだなぁ、と思います。労働党のコービン党首、さすがのパワーと言うべきでしょう。現有の232議席以上の議席を獲得したら、どうなってしまうんでしょ?
実は結構な波乱要因になりつつあるイギリスの総選挙。Brexitの際のようにマーケットが大荒れ、何てことには結果がどう出ようとならないとは思いますが、それでも選挙マニアとしては注目すべき状況になりつつあります。
イギリスの総選挙は6月8日(木)。どんな結果となるのか興味深く見守ろうと思います。
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PS 2017年イギリスの総選挙、保守党が過半数割れで敗北!ポンドドルが大きく下落しました。
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