東芝5,500億円の赤字原因はPC・家電・TVと繰延税金資産、綱渡りの財務状況

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 東芝が2016/3期で5,500億円の最終赤字の計上予想を発表。合わせて16,000人のリストラも発表。不適切会計問題をきっかけにスタートした東芝の経営問題、遂に本業部門での大リストラ、そして大赤字計上という事態に至りました。

 5,500億円の赤字の内訳は、PC・家電・TVが1,400億円の赤字、リストラ費用等が900億円、過去の税金資産の取り崩しが2,600億円で、赤字の原因はPC・家電・TVの不振と税金資産の取り崩し、という面が非常に大きい内容。

 これまで原発事業での赤字がクローズアップされていた東芝ですが、本業の大赤字は若干意外。ここで体力を消耗せざるを得ない東芝。今後綱渡りの財務状況が続くことになります。

 今回発表された東芝の決算内容及び、2016/3期の5,500億円という赤字が東芝の貸借対照表(B/S)に与える影響を調べてみました。

東芝の2016/3期の5,500億円の赤字部門毎の詳細内訳

 赤字決算の予想はしていましたが東芝は2016/3期の予想決算を5,500億円の最終赤字と発表。後述しますが、この数字、原発事業の減損を含まない数字となっています。本業もここまで痛んでいたのか・・・、というのが正直な驚きです。多分に2017/3期のV字回復のための仕掛けもあるとは思いますが、部門別に赤字額及び詳細の内訳を見てみます。

  1. 電力・社会インフラ→▲300億円
  2. 昇降機・業務用空調等→▲300億円
  3. ヘルスケア→+150億円
  4. 半導体→▲250億円
  5. PC・家電・TV→▲1,400億円
  6. 本社部門等の構造改革費→▲900億円
  7. 繰延税金資産の取り崩し等→▲2,600億円

 東芝の5,500億円の赤字は、本業のPC・家電・TVが1,400億円の赤字、リストラ費用等が900億円、過去の税金資産の取り崩しが2,600億円、というのが大まかな内容となっています。
 
 では、詳細に赤字の内訳を見て行きます。

電力・社会インフラ→▲300億円

 当サイトでも記事を書いてきた東芝の原発事業(主にウェスティングハウス)の減損問題。実は今回の発表では何も数字は触っていません。減損せずに電力・社会インフラ部門300億円の赤字計上。他部門の赤字額が多いので、300億円程度か、と思ってしまうのが数字な不思議な所。
 

昇降機・業務用空調等→▲300億円

 こちらも電力・社会インフラ部門と同じく300億円の赤字計上。フィンランドの昇降機の保有株式を売却することで、何とか帳尻を合わせることに。

ヘルスケア→+150億円

 ヘルスケア部門は150億円の黒字ですが、東芝としては切り離しを決意。ヘルスケア部門は東芝の重点事業との位置付けられていた時期もありましたが、東芝本体の生き残りの為に他社に売却の方向へ。

半導体→▲250億円

 大分工場の画像センサー設備等をソニーに売却。東芝の今後の再建の柱となることを期待されている半導体部門、ここで過去の負の遺産処理を行い、来期以降のV字回復を計画しているのでは?

PC・家電・TV→▲1,400億円

 PC・家電・TVと個人用部門は3つ合わせて1,400億円の大赤字を計上。今回の赤字計上、本業部分では他を圧倒する赤字額となっています。

 PC部門は既に報じられている通り、富士通及びVAIOとの事業統合が噂されています。

 家電は白物家電中心に大幅縮小予定ですが、具体策はこれから。(二層式洗濯機からは撤退)

 「REGZA」ブランドでマニアからは評価の高い東芝の液晶TVですが、まずは海外からの生産・販売から撤退。国内は具体策はこれから

本社部門等の構造改革費→▲900億円

 本社のスリム化及びリストラ費用として別途900億円を計上。

繰延税金資産の取り崩し等2,600億円

 上記事業部門で合計約3,000億円。2016/3期の最終赤字5,500億円との差額は、繰延税金資産の取り崩し約2,600億円が存在しているため。

 繰延税金資産というのは、極々簡単に言えば過去に払い過ぎた税金について、戻ってくる予定の税金を計上しているもの。ただし戻るといっても、正式には将来の納税額から差し引きされる数字ではありますが。
 払うべき税金が発生する黒字決算の時は、繰延税金資産も計上できますが、赤字決算だとそもそも税金はゼロ=差し引きされる税金もゼロ、となり、繰延税金資産のB/S計上は認められません。
 今回東芝は5,500億円もの大赤字計上を受け、納めるべき税金が発生しないので、繰延税金資産も取り崩し、となっています。

 つっこみ所もある説明ですが、簡単に説明すればこんな感じです。

原子力部門の減損はせず

 注目の原子力部門の減損は行っていません。

原子力事業ののれん及び固定資産の減損は含まれておりません。減損判定については、決算確定に向けて減損テストを実施し、その結果を適宜ご報告します。(東芝のIR資料

 原発事業の減損は今後の宿題ということのようです。

15.9.8ダイナブック
東芝のPC部門も分社化へ

国内外で10,600人をリストラ

 これまで人員削減=リストラせずにやってきた東芝ですが、遂に東芝にもリストラの嵐が吹くことに。全社合計10,600名、国内5,800名+海外4,800名のリストラを発表。国内では殆どの方が対象となるようです。ただし東芝グループ全体としては10,600人という数字は人員の約5%。しかしながら、東芝としてはどうしても避けたかったリストラに臨まざるを得ません。

 管理人はリストラ=善、との考えは全く持ち合わせていませんが、今回の東芝のリストラは、やるべき時にやるべきことを断行しないと、傷口が大きくなる、という典型例となりそうです。
 東芝の歴代経営者が、チャレンジと言って、無理な数字を作っていた訳ですが、お前の事業部赤字だから他社に売ってしまうぞ、というセリフもあったようですが、不適切会計でやりくりしつつ、今回の時を迎えています。そう考えると、東芝の歴代の経営者がするべきことは、数字のチャレンジではなく、構造改革のチャレンジだったのではないかと。
 日立、パナソニックのリストラをしり目に東芝はリストラせずにここまで来て、その姿勢自体は褒められるべきですが、同じような事業の会社が一人できる訳はない、と言う結果になっています。

 社員にとっては、前でも後でもリストラ自体に変わりはありませんが・・・。

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2016年3月期の予想貸借対照表(B/S)

 2016年3月期の最終赤字5,500億円を計上の場合、東芝はどんな貸借対照表となるのか、シミュレートしてみました。

2015年3月期の貸借対照表

 まず2015/3期のB/Sはこんな状況となっています。

15.12.22東芝2015年3月期BS-min

 後述しますが、「その他資産」の部分に原発事業の”のれん代”が入っています。

2016年3月期の貸借対照表について

 では今回発表された東芝の5,500億円の赤字を反映したらどんな貸借対照表になるのか?

 税引き後当期純利益が5,500億円の赤字、というとは増資をしない限り、資本の部がそのままマイナスになります。

 東芝は2015年3月期の資本の部1兆5,650億円が、2016年3月期には資本の部1兆600億円まで減少します。

 さすが東芝、5,500億円の赤字を計上してもまだ1兆円以上の自己資本を有しています・・・、とここで問題になってくるのが原発ののれん代。原発ののれん代、コレがなければ今回の東芝の問題も、今回の大赤字計上→来期からV字回復、というシナリオにスンナリ落ち着いたと考えられます。
 しかし東芝には原発事業という重石が存在。

2015年3月期のその他資産内訳

 東芝の2015年3月期の貸借対照表の「その他資産」の内訳は以下のようになっています。

その他資産合計1兆4,602億円
①のれん及びその他の無形資産1兆1,246億円
②長期繰延税金資産1,908億円
③その他1,448億円

※長期繰延税金資産はその多くは2016年3月期決算で取り崩しと考えられます

 注目すべきは「①のれん及びその他の無形資産1兆1,246億円」、大半が原発事業=ウェスティングハウス絡みの”のれん代”となっています。

 尚、東芝の”のれん代”については下記で詳しく解説しています。

 東芝の2016年3月期決算、のれん代=資本の部、という状態になってしまいます。

 当サイト及び各方面で話題になっている東芝の原発事業の減損問題、今後どこまで拡大するか分かりませんが、まだ何も手当をしていない段階で、のれん代=資本の部。
 のれん代の全部が全部減損対象、という訳ではないでしょうが、東芝の自己資本は極めて不安定(監査法人のサジ加減一つで変わってくる)、と言わざるを得ません。

 のれん代を全額減損+半導体部門等で大赤字が発生すると東芝は債務超過に転落します・・・。
 
 ついでに言えば、これまで東芝を監査していた新日本監査法人は退任。次はどこの監査法人が担当するかは分かりませんが、当然これまでの経緯もあり厳しい対応が予想されます。まぁ逆に、東芝の監査はどこの監査法人も引き受けたくなさそうですが・・・。

15.8.25経理-min
東芝の監査、新日本監査法人の次はどこが受けるのだろうか?猫の首に鈴はつける役はやりたくありませんので・・・

東芝の赤字問題、2つの論点

 どうから東芝の赤字問題、2つの論点がありそうです。

①本業部門の赤字
②原発事業の減損

 今回2016年3月期の大赤字決算の予想は①に起因するもの。本業がここまで弱くなっていたのは驚きですが、もうコレで膿を出し切ったとして2017/3期以降のV字回復に期待。

 そして各方面が心配していたのが②の原発事業での減損。これは現段階で手つかず。今後どうするか分かりませんが、下手に手を付けると=減損すると、①が思った以上に赤字が巨大なので、東芝の足元事態が揺らいでしまいます。
 じゃあ減損しないかと言えば、もうそういう訳には行かないでしょうし、東芝の原発問題はそのままにしておく、という予定調和を考え出した面々は、今再び頭を悩ましているのではないかと。

 客観的には自己資本増強=増資、するしかないと考えます。自己資本が監査法人や事業環境に左右される状態は決して健全ではないですし。金融危機の時に、監査法人のサジ加減で銀行が債務超過になるかどうか、という状態でしたが、それに似ています。

 それに何より、東芝の今後の屋台骨を支えるのはボラティリティが高い=儲かる時は儲かるが損が出る時は損もデカイ、半導体事業なんですから。こんな自己資本の状態で半導体事業に何かあったら、大変なことになりますから、ホント。

 ただし東芝は医療部門の東芝メディカルの売却で、資金を捻出して危機的状況を乗り切る方向のようです。

 そしてマーフィーの法則じゃないですが、物事ってこうなると嫌だなぁ、という流れに行くことが多いです。そう考えると、東芝の命運を握るのは、注目を浴びている+予定調和が可能な原発事業ではなく、半導体事業かもしれません。

 個人的には半導体部門、いやーな感じがしています。

まとめ

 同業が苦しい時に一人楽な商売はできない、というのは似ている業種の株価が似たような動きをするのを見ていると、実感できます。東芝は日立がリストラしている中、リストラせずにここまで来た訳ですが、やはり東芝も苦しかったのか・・・、ということが今回の発表で分かる結果となりました。

 東芝の不適切会計問題、原発事業も問題ではありますが、本業でもここまで問題が悪化していた、というのは正直驚きであります。しかし問題は、原発事業に手を付ける前に、東芝はここまで体力を擦り減らしてしまったこと。
 東芝の財務状態は当面、綱渡り状態になりそうです。どこかのタイミングで(できれば早期に)、恥も外聞も投げ捨てて自己資本の充実=増資、が必要ではないかと。

 シャープは正直、既に積んでいる状態になりつつありますが、2016年は東芝がどんな方向に行くことになるのか?さすがは名門企業の底力、と言う展開になり、どうにかしのいで+V字回復、と願いたい所。

 2016年も東芝の行方に目が離せなくなりそうです。

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