東芝の再建策を巡って、銀行団の足並みが乱れているようです。簡単に言えば、地銀が怒ってます。
東芝向け融資の担保設定で地銀から大手行を優遇しすぎとの不満が爆発。実は三井住友銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行のメイン3行で融資シェア約4割となっていて、地銀が一斉に反発すると、メイン3行も地銀の融資分の肩代わりがとでもではないけどできない状況。
なんだか東芝の対株式市場向けのドタバタ劇を銀行バージョンで見ている感もありますが、東芝を巡る地銀のスタンス、今後の東芝の再建の鍵を握るおおきなポイントとなりそうです。
概要
東芝は地銀からも多くの融資を受けている
日立と比べると以前から東芝は借入金の多い会社となっていました。元々東芝のメインバンクは三井銀行で、現在の三井住友銀行。そんなに三井銀行の体力がなかったからという事情もあったかもしれませんが、東芝への融資は三井住友銀行・みずほ銀行・三井住友信託銀行の3行がメイン行になっていて、その下にズラーッと銀行や生保の名前が連なっている状態。
「東芝の倒産危機、再建の鍵は地方銀行が握る可能性も」という記事を1月11日に書いていますが、1月11日の日経新聞に掲載されていた各銀行・生保の融資残高は下記のようになっていました。
三井住友銀 1,100億円
みずほ銀 1,100億円
三井住友信託 750億円
三菱東京UFJ銀 547億円
三菱UFJ信託 480億円
第一生命 400億円
農林中金 365億円
政投銀 240億円
りそな 210億円
その他 2,795億円(地銀や生保など)
合計 7,987億円
(注)単位億円。2016年9月末時点。取引銀行の資料を基に作成。
(2017/1/11日本経済新聞)
メイン3行で合計の融資残は2,795億円、全融資残と比べると融資シェア約37%であり、東芝の再建はメイン3行はもちろんのこと、メイン行以外の協力を取り付けが必要不可欠。
メイン行以外の協力って、要は地銀が結構貸しているので地銀の協力を取り付けられるかどうか、と思っていたのですが、東芝は対株式市場や東京証券取引所にやってしまったマズイ対応をしているようで、地銀団は怒り心頭状態のようです。
2016年12月末の東芝向けの融資残高、日本経済新聞より
3月29日の日経新聞に掲載されていた2016年12月末時点での東芝の融資残高は下記の通り。
三井住友銀行 1,748億円
みずほ銀行 1,748億円
三井住友信託銀行 1,256億円
三菱東京UFJ銀行 1,052億円
三菱UFJ信託銀行 618億円
農林中金 484億円
第一生命 400億円
横浜銀行 275億円
日本政策投資銀行 240億円
りそな銀行 210億円
明治安田生命 180億円
福岡銀行 170億円
岩手銀行 151億円
群馬銀行 120億円
三井生命 110億円
静岡銀行 100億円
日本生命 100億円
(2017/3/29日本経済新聞)
前回の当サイトの記事の際は、2016年9月時点での各銀行等の融資残でしたが、今回は2016年12月、3か月後の状況。
まずメイン3行の融資残の増加がハッキリ分かります。
三井住友銀行 1,100億円→1,748億円(+648億円)
みずほ銀行 1,100億円→1,748億円(+648億円)
三井住友信託銀行 750億円→1,256億円(+506億円)
そして前回の残高と比べると思いの外残高が伸びているのが三菱東京UFJ銀行(547億円→1,052億円:+505億円)。三井住友信託銀行とほぼ同じ増加数字なので、準メインという立ち位置になっているのではないかと推察されます。
メガバンクで必死に東芝を支えている姿が如実に数字に表れています。
問題は9月末時点での融資残が約8,000億円だったのに対し、12月末時点の残高が分からないこと、何せ東芝は12月の第3四半期の数字をまだ開示していません。よって上記の各数字を積み上げると約9,000億円なんですが、実際の総合計もこんなものなのか、それともまだ更にオンされるのかは分かりません。
全体の融資残高がまだ多いようなら、100億円以下の融資残の地銀が存在していることが容易に想像できます。ただし約9000億円の残高で収まっている、ということであれば、地銀の融資残って約550億円なので、案外メイン系で全て受け止められる可能性があります。
東芝の融資はマックス1.3兆円の可能性も
東芝は融資のつなぎとめに向け、銀行団に担保を差し出すことを提案した。三井住友銀行やみずほ銀行など主要行が設けた計6800億円分の融資枠に対し、東芝の半導体メモリー事業を分社して発足する「東芝メモリ」の株式を担保にする。他の地銀融資など6180億円分には東芝のグループ会社の株式や事業所の不動産などを担保につけるないようだ。(2017/3/29日経新聞)
この部分を読むと主要行は既存+融資枠で約6,800億円、地銀等で6,180億円となります。地銀等の融資枠があるかは分かりませんが、それでも主要行の9割程度の融資残なり融資枠があってもおかしくはない状況。尚、12月末時点ので三菱系2行を加えた主要行の融資残は6,422億円。実は枠がもう約400億円しかなかったりするかも。ま、三菱系2行は主要行に入っていない可能性も無きにしもあらずなので若干注意は必要ですが。
簡単に言うと6,800億円+6,180億円=約1.3兆円となるので、Max東芝は1.3兆円の融資及び融資枠が存在しています。
そして地銀等がその内の約47%を持っている可能性がある、ということになります。
地銀等の中には生保や政府系もあるのですが、仮に1.3兆円という数字が正しく尚且つ三菱系2行が主要行扱いをされていると、東芝の再建において地銀の影響力は非常に大きいと言わざるを得ません。
激怒する地方銀行
その地方銀行、東芝に対して怒り心頭です。以下、日経新聞の記事をどうぞ。
・地銀の反発は東芝や主要行の想像を超えた。
・東芝は担保設定について銀行団に24日までに回答をもらい月末までに実施する方針だったが回答期限を延期。
・「本来なら下位行から融資を返済されるはず。(今回の担保設定では)大手行だけ助かるように見える。地銀をなめている」(首都圏地銀首脳)
・ある西日本の地銀では東芝向け融資を破綻懸念先に分類すると2017年3月期の純利益(銀行単体)の3割近くが吹き飛ぶ計算。
・地銀が融資を引き揚げると、肩代わりを迫られるのはメインバンクだ。メイン行の担当者は地銀訪問を繰り返し、融資継続を訴えている。
「地銀をなめている」(首都圏地銀首脳)と激おこ状態なのは横浜銀行じゃないかと推察しますが、地銀が怒っているのは間違いありません。また東芝を破綻懸念先にすると純利益の3割の利益が飛んでしまう地銀は17/3期に連結ベースで40,000百万円の当期純利益を予想している福岡銀行じゃないかと推察しますが、さてどんなもんでしょ。
いずれにしても自分の懐にダイレクトに響いてくるのと、そんなの聞いていない、という状態が連発している東芝に対して地銀は怒り心頭なのは間違いありません。
融資の資金、予定通り返済してくださいね、融資残高の維持はありませんから・以上、これが地銀の本音ではないかと。メイン行の担当者及び担当役員総出で地銀をなだめすかしていそうな。
金融庁の意向と言う伝家の宝刀は存在するが・・・
何のことは無い、金融庁が地銀に対して、東芝向けの融資残高は維持するように、という話をしてしまえば問題解決のような気もしますが、現在地銀と金融庁の関係は正直微妙。
日本に地方銀行が多すぎる、というモードの金融庁は地銀に対して、今後どうするんだ、と再編モードで相当詰めています。まぁ長崎の十八銀行とふくおかFGの合併は、公正取引委員会という思わぬ敵の存在に苦労していますが。
関連記事:十八銀行とふくおかFGの統合が延期、原因は公正取引委員会
当局のこれまでの御指導に従い地元経済活性化に注力するため首都圏である東芝向け融資は撤退します、と地銀が行ってきた時、金融庁は東芝だけは融資継続でお願いね、と言えるのかなぁ。ま、ソレはソレ・コレはコレ、で押し切ることもできますが、地銀もただではYesとは言わないでしょうし。
東芝と地銀の問題、金融庁も絡めて見てみると、外野としては結構面白い構図になっています。
まとめ、しかし東芝は根回し下手だな・・・
今回の地銀の問題に限った話ではありませんが、東芝の根回し下手は驚きます。対株式市場は、対東証、そして対地銀。株式市場は根回しできないとしても、東証や地銀はいくらでも根回しと言う名の事前説明が出来たような気がします。大企業の東芝、根回し文化があると思いきや、そんなのではなかったのか?実は社内の根回しは得意でも、大企業特有の商売していたから、対外的な根回しはからっきしダメ、というお話かもしれませんが。
ウェスチングハウスの破産申請も行われる予定ですが、日本政府やアメリカ政府に根回ししているのか若干心配。ウェスティングハウスをこれまで通りのモードで破産申請させると、アメリカ政府まで激怒する可能性もありますので。
12月末時点での融資残の総額が分からないので、上記は騒ぎすぎの可能性も無くはありませんが、ともあれ東芝再建は地銀の動向がカギを握っているという点、その地銀は怒り心頭モードになっている点は間違いなさそうです。
東芝問題、まだまだ長引きそうです。今後も追いかけて見ようと思います。
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