税前利益約1000億円は本当なのか?Bitmainの開示資料だけでは判断できないなー、というのが正直な所。
仮想通貨マイニング機器メーカーのBitmainが香港市場へのIPOを申請。これまで秘密のヴェールに包まれていた同社の数字が明らかになりましたが、腑に落ちない点も。
急成長を遂げているのは間違いないようです。ただし、巨額な利益を計上できている、と判断するには材料不足ではないか、と考えられるBitmainの開示資料の内容となっていました。
概要
ユニコーン企業Bitmainが遂にIPOへ、市場は香港市場
Bitmainと言われても、何の会社?、という感じの方が殆どでは?Bitmainは中国の仮想通貨のマイニング機器メーカーとして、世界にその名を知られた存在。日本でも昨年の仮想通貨ブームの時に、自宅でPC組み上げて仮想通貨のマイニングで儲けましょー、的な記事を見かける機会が多くなり、PCパーツ店からグラフィックボードの在庫がなくなる時期がありましたが、要は仮想通貨用のマイニングマシン(もっと詳しく言うとマイニング用の半導体)を開発販売している会社です。
中国はマイニングの大手企業が集まっている地域であり、マイニング企業にハードを納入しているのがBitmainを始めとするマイニング機器メーカー。Bitmainはマイニング機器メーカーの最大手企業。
これまでユニコーン企業として鳴らしており、日本からはソフトバンクグループが出資している企業です。
実はBitmainはユニコーン企業として有名な存在でしたが、未上場企業であり数字面は殆どオープンになっておらず、実際の所どんな規模感の会社・どんな成長曲線で成長していたのか明らかにされていませんでした。
しかし今回、香港証券取引所に上場申請を行い、提出書類の中で同社の数字が明らかに。その驚くべき成長が白日の下にさらされました。
Bitmainの2017年12月期の税前利益は約1000億円!
香港証券取引所に上場申請するにあたり開示されたBitmainの資料は下記となります。
http://www.hkexnews.hk/APP/SEHK/2018/2018092406/Documents/SEHK201809260017.pdf
・438ページの結構なボリュームです
その開示資料の中で、同社のこれまでの成長の軌跡が明らかになっています。
2016年12月期 売上高277M$$、税前利益137M$
2017年12月期 売上高2,517M$、税前利益897M$
2018年6月中間 売上高2,845M$、税前利益907M$
日本円(1ドル=113円)にザックリ直すとこんな感じ。
2016年12月期 売上高310億円、税前利益154億円
2017年12月期 売上高2,844億円、税前利益1,013億円
2018年6月中間 売上高3,214億円、税前利益1,024億円
16年12月期→17年12月期で売上が約300億円から2800億円オーバーになっている部分にまずは驚き。昨年の仮想通貨ブームを体現している数字です。そして17年12月期は税前利益約1,000億円。税前で1,000億円の利益を上げるベンチャー企業なんて、聞いたことありません。ユニコーン企業の躍如たるものがあります。
面白いのは今期に入っても成長が続いている部分。既に今期は半期(18年6月中間)時点で前期の通期以上の業績を上げています。仮想通貨市況の低迷は知られた通りですが、仮想通貨のマイニング機器の開発を行っているBitmainの成長は継続中。コレは素直にすごいなー、と思ってしまいます。
日本のユニコーン企業の右代表のメルカリ<4385>は上場後の2018年6月期は、売上高358億円、経常利益▲47億円。Bitmainの成長はけた違いです。中国経済のダイナミックさをBitmainの成長に見る事ができます。
仮想通貨価格が低迷の今期もハードが売れている
Bitmainはマイニングの機器開発のみならず、自らマイニグを手掛ける企業としても知られています。GMOインターネットが自らマイニングマシーンを開発して、更に自らマイニングを手掛けていますが、Bitmainが大先生的存在です。
ただしBitmainは軸足をハード部分に置いており、仮想通貨価格低迷の今期もその軸足はぶれていません。
直近のハード売上高の推移は下記。
2015年12月期 107,878千$(全体売上高137,343千$)
2016年12月期 214,698千$(同277,612千$)
2017年12月期 2,263,237千$(同2,517,719千$)
2018年6月中間 2,683,853千$(同2,845,467千$)
過去も現在も同社はハードの売上比率が大半を占めています、よって自らマイニングを手掛けるといっても、ハードメーカーという立ち位置に変化はありません。
海外市場のIPO案件なので、数字をそのまま信じてはいけない可能性も
ハイ、ここ迄に散々成長性が凄い・驚いた、と書きながら肝心なことを伝えておりません。それは申し訳ないのですが、香港市場の上場申請書類であり、開示された数字を信じるかどうかはあなた次第!、です。
日米欧の先進国市場に上場する銘柄の申請書類ならともかく、香港市場の上場申請書類。恐らく数字部分は鉛筆ナメナメの部分があるんじゃないか、と疑ってみたほうが間違いは少ないです。
さすがに438ページもある開示資料、趣味で読み込むほど時間はありませんが、気になるのが貸借対照表(B/S)がしっかりした形で開示されていないんですよ。(見落としている可能性もありますが、しっかりしたのは多分ない)
同社もメーカーに属する企業であり、財務分析の入り口としては在庫量の確認は必要不可欠です。それができない!
あとマイニング事業している訳で、となると自ら保有する仮想通貨の総量と時価評価どうなっているのか、ここも確認する必要があります。このあたりザックリとした記載はありますが、管理人の英語力の問題もさることながら、しっかり記載されている状態ではありません。
損益計算書(P/L)だけ見て企業評価できるようなら苦労はない訳ですが、Bitmainの開示書類、正直日本の目論見書のレベルで見ると肝心な事が書いてないので上場承認下りないレベルです・・・。
Btmainの成長性は間違いないものの、実際に2017年12月期に税前利益で1000億円の利益が出ていると断言はできないよなー、というのが日本的なIPO用の目論見書分析の観点からの管理人の意見でございます。
海外銘柄だし上場がゴールだったりしないか?、とうがった見方も出来なくはない・・・。ま、仮想通貨銘柄で高い成長性、といううたい文句だけで飛びつくと痛い目にあう可能性はあるんじゃないかと。香港市場に上場なので、日本人で投資しようとする人は余程のマニアなので、その辺りのリスク感覚はあると思いますが。
素朴な疑問、仮想通貨価格が低迷しているのにハード屋が儲かるのはなぜ?
管理人が一番、変なの・・・、と思うのは、ビットコインを始め仮想通貨価格は2018年低迷している中で、なぜにマイニング機器メーカーは昨年以上に儲かっているのか?、という部分。
仮想通貨の価格が右肩上がりで、マイニングマシーンも飛ぶように売れて・・・、という状態ではありません。開示書類を読み解くと、納得いく理由があるかもですが、絶対的な市場環境が悪い時なぜか儲かっている会社があれば、それは何かやらかしている可能性がある、というのは直近は東芝のテレビ事業の例で投資家は経験済みだったりします。
それに以前記事にしましたがNVIDIAはもう完全にマイニング事業は見切っています。
関連記事:NVIDIAが仮想通貨のマイニングに見切りをつける、マイニングブームの終焉
GPUをマイニングに流用するのとマイニング特化の半導体で扱いは違う部分は理解しますが、NVIDIAが見切った事業で、いくらBitmainといってもウハウハなビジネスが可能なのか?、と言う部分に疑問が残ります。また決算書への信頼性という面では、既にナスダック市場に上場しているNVIDIAが圧倒的に上になりますし。
いずれにしても市場環境が良くない時に成長している、という部分への違和感を管理人は感じています。
・NVIDIAは仮想通貨のマイングビジネスに見切りを付けました・・・
まとめ
実は最初は、仮想通貨のマイニング機器メーカーがすんごい成長性でIPOするんだぜぃ、というノリで記事を書き始めたんです。ところが改めて開示資料を見ていくと、なんか違和感あるなー、という思いが沸き上がり、結果上記の内容の記事となりました。
実はマイニングした仮想通貨の簿価がとっても低くて、時価評価した分の含み益がP/Lに計上されています、という国際会計基準のテクニック使ったのか?、と思ったのですが、昨今の仮想通貨価格の低迷はさすがにマイニング企業でも採算ギリギリなので環境的にそれもなさそうですし、そんな記載もない様子。
管理人の結論としては、会計制度がしっかりしていない国のIPO案件だよなぁ、というBitmainの成長性とは関係ない所で着地した同社の開示資料読みとなりました。
IPOの目論見書だけは、国内中心ですが20年以上読んでいるのでその経験で言うと、別にBitmainの投資判断する訳ではありませんが、判断するには材料不足です。
相場なので需給で値が跳ねる事は日常茶飯事ですが、Bitmainについては、右から左に成長企業ですよん、とそのまま評価するのは難ありではないかと。
そしてBitmainは香港証券取引所に上場申請した段階で、まだ上場が決定した訳ではありません。香港市場は実はアリババのIPOを情報開示が不十分と言って突っぱねている骨のある市場だったりするので、そのままBitmainも上場しない可能性もあります。
実際にBitmainが香港市場に上場するに至るのか、今後興味深く見守りたいと思います。
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