イギリスのEU離脱を問う国民投票は2016年6月23日実施と決定。今後、4か月間に渡ってイギリスがEUに残留すべきかどうか、まさに国民的議論が繰り広げられます。
日本では楽観論もありますが、実は世論調査ではEU離脱賛成が過半数を超えてしまっています。イギリスがEU離脱を決定すると、スコットランド他の独立問題再発と言うイギリスにとってはパンドラの箱を開けてしまう可能性も。
はたしてイギリス国民はどんな判断を下すのか?今後の動向にご注目。(2016年6月20日追記)
前回の記事:ギリシャの次はイギリスのEU脱退問題が浮上の予定
概要
イギリスのEU離脱を問う国民投票は6月23日に実施が決定
元々イギリスのキャメロン首相はEU残留派。しかしながらイギリス国内にEUに対する不満が渦巻いており、国民投票を前に、EUとギリギリの交渉を行いイギリスに対して譲歩を引き出して、その成果を国民に示すことでEU残留を訴える、というシナリオを描き、現在に至っています。
そしてEUとイギリスとの交渉がまとまったことをもって、国民投票を6月23日と決定しています。
今のところは、流れ的にはキャメロン首相の当初描いたシナリオ通りに進んでいます。しかし最後に決めるのは国民投票。ここから先が本当の勝負となってきます。
イギリスとEUの合意内容について
イギリスとEUで合意した、EU改革案について日本経済新聞は下記のようにまとめてあります。
域内移民への福祉制限
→緊急措置を最長7年導入可能に
→措置の導入期間中は社会保障給付を最長4年制限できる
非ユーロ加盟国の権利保護
→通貨同号を進める新政策に反対の場合、EUについアッ協議を求められる
→「拒否権」は認めず
(2016/2/21日本経済新聞)
後述しますが、イギリス国民の間で不満が渦巻いているEUの移民政策と通貨統合に関して、表面上はEUがイギリスに譲歩した内容となっています。ただし、現状の内容を確認しただけ、との批判もある様子。本当にイギリスはEUと交渉して果実を勝ち取ったのか、単にお互いの面子を立てた文章を作っただけなのか、この辺りは今後徐々に明らかになっていくでしょう。
個人的にはさすがに、実質的にはゼロ回答ということはないのではないかと。
イギリス当局はEU残留したい、EU側もイギリスに残ってもらいたい、と思っている訳で、当然折り合えるところは折り合いましょ、と交渉はなってきます。
あと、中東からの移民の通り道になっている東欧加盟国がEUの現在の移民政策に不満を募らせており、EUとイギリスの交渉状況を、東欧加盟国が注視している状況。これでEUがイギリスに対してゼロ回答をしようものなら、東欧加盟国の不満が爆発しかねません。よってEU側として、EUをまとめる、という観点からも移民政策に関して、ある程度イギリスに譲歩をしないと示しがつきません。
ついでに言えば、現在のEUの移民政策、積極的に支持しているのはドイツ、それもメルケル首相のみという状態となっており、EUの崇高な理念はそれはそれとして、絶対今のままじゃなきゃダメだ、と主張する理由も人も無い状態。そんな訳で、EU側もイギリスに譲れる部分は相当譲ったのでは?、と状況的には考えられます。
そもそものイギリス国民のEUへの不満
イギリス国民のEUへの不満は大きく分けて3つあります。
①移民政策
②ユーロにお付き合いせざるを得ない不信感
③自国経済への自信
①移民政策については、ブルーカラー層としては、移民に仕事を奪われているという不満があり、また、移民に対する福祉手当が厚いため何故にイギリスの税金を移民に必要以上に使う必要があるのかという不満、この2点が大きな要因。
今回のEUとの合意で、移民の福祉に制限が可能になるため、イギリス政府としては最大の交渉の成果、となります。他の国のために何故必要以上に自国の税金を使う必要があるのか、というのはいずこの国のどんな層でも不満が募る問題ではあります。そこでEUから譲歩を引き出した形となっており、キャメロン首相の成果と言えます。
②イギリスがユーロにお付き合いをせざるをえない不信感についてですが、EUは基本的に統合を深化させる、という方向でこれまで進んできています(移民問題発生以後、あやしくなっていますが)。そんな中、イギリス政府も政策をEUに縛られることが多くなっており、更にイギリスは通貨はポンドという独自通貨を維持しているにもかかわらず、ギリシャ問題始めとするユーロ危機にお付き合いを余儀なくされています。
ギリシャ危機の真っ最中の時、イギリスは支援金出すのに徹底抗戦してましたが、それはユーロの問題で我々に関係ないし・・・、ということ。もうユーロのゴタゴタに付き合いたくない、というのは独自通貨を維持しているイギリスの偽らざる本音ではないかと。
③は管理人の考え。イギリス経済は実は先進国の中でトップクラスの成長率を誇っています。EU加盟の恩恵はあるにせよ、かつて英国病と言われボロボロだった経済は見事によみがえっています。
IMFが出した2015年のGDP成長予想ではイギリスのGDP成長率2.5%と予想されています。この数字、何とアメリカの2.6%に次ぐ高い数字で、イギリス経済がいかに好調かを数字で表しています。ちなみに日本は0.6%です・・・。
(詳しい数字は、以前の記事の「イギリスが強気の背景は経済の好調」をご覧ください)
自国の経済が順調で、更に元々大英帝国で自立のプライドが高いイギリス国民。EU離脱論の大いなる背景と管理人は考えています。
世論調査はEU離脱賛成が多数派
実際の国民投票まで後4ヶ月ありますが、足元の世論調査はEU離脱賛成派が多数派となっています。日経新聞に丁度よいグラフが掲載されていたので、画像を貼っておきます。
2016/2/21日本経済新聞より
昨年末頃まではEU残留と離脱と世論は拮抗していましたが、12月についにEU離脱派が多数を占める事態に。そして2016年に入り、離脱派の支持に勢いがついています。
移民問題がクローズアップされたタイミングと、世論調査の結果がシンクロしているのは明白です。EUを離脱すべきか、残留すべきか今後本格的な議論が始まりますが、スタート地点ではEUからの離脱支持が優位に立っています。
2016年6月時点での世論調査もEU離脱派が優位
EU離脱に賛成か反対か、決めるイギリス国民も意見が割れています。2016年初は離脱派が多数という状況でスタートし、その後に残留派が巻き返しつつあるようですが、2016年6月時点でのイギリスの世論調査結果が日本経済新聞に掲載されていたので、ご紹介。
調査会社ユーガブが6日公表した世論調査(対象3500人)は離脱が45%、残留は41%。約1カ月で離脱は5ポイント上昇した。ICMの直近の世論調査も離脱が48%で残留を5ポイント上回った。英フィナンシャル・タイムズによる直近7つの世論調査の平均値は残留45%、離脱43%と伯仲した。(16/6/10日本経済新聞)
どうやら最後の最後まで、結果は蓋を開けてみないと分からない、という状況となっています。
しかし最後の最後で離脱派が巻き返しているのは、結構意外な感がします。
16/6/20追記:国民投票直前の世論調査は残留派が有利に
EU残留派の労働党コックス議員の殺害事件後に行われた注目の世論調査。結果は残留派優位の数字となっています。
調査会社の”YouGov”がコックス議員が殺害された当日とその翌日に行った結果、
残留:離脱=44%:43%
との結果になりました。
https://yougov.co.uk/news/2016/06/17/eu-referendum-remain-lead-one/
YouGovでは今回の国民投票の推移を、2014年のスコットランドの独立を問う国民投票に似ている、と考察しています。スコットランドの独立を問う国民投票の際も、独立派が世論調査では優位に立ちつつも、最終的にはスコットランドはイギリスに残留、という国民投票の結果が示されています。
ブックメーカーはEU残留優勢と判断
ブックメーカーというスポーツの試合で賭けを行っている会社が海外には多く存在していますが、そんなブックメーカーは政治についても賭けの対象としてます。ブックメーカー大手のウィリアムヒルはイギリスのEU離脱問題についても賭けの対象としています。
ウィリアムヒルの、イギリスのEU残留と離脱のオッズは下記となっています
残留:離脱=1.30:3.40(2016年6月6日時点)
残留:離脱=1.33:3.25(2016年6月20日朝時点)
2016年初からブックメーカーの掛け率の数字を見ていますが、ブックメーカーは一貫してイギリスはEU残留の可能性が高い、と判断しています。国民投票がある週初、6月20日でもその傾向に変わりはありません。
カミングアウト大会がスタート
国民投票の日程が6月23日に定められ、既に実質的な選挙戦がスタートしているイギリスですが、EU残留or離脱のカミングアウト大会がスタートしています。各回の大物が残留か離脱かどちらを表明するかに非常に注目が集まっています。
さっそくカミングアウトを行って物議を呼んでいるのは、ボリス・ジョンソン現ロンドン市長。
イギリスの首都ロンドンのボリス・ジョンソン市長はEU離脱支持を表明!
イギリス経済を支える金融業界=シティーはEU残留を支持してるなかで、ロンドン市長がEU離脱を表明してしまっています。このボリス・ジョンソン市長、名物市長としても有名で、次の首相候補との声も上がっている方です。そんな方がEU離脱支持を表明してしまった訳ですから、イギリス国内はちょっとした騒ぎになっているようです。
今後、政界だけでなく各界の大物のカミングアウトが増えそうですが、誰が残留を支持して、だれが離脱を支持するのか、非常に注目を浴びそうです。
実は政治リスクが高いイギリスのEU離脱
イギリスのEU離脱問題、経済的側面から論じられることが多いのですが、管理人が注目しているのはスコットランドを始めとする政治問題。
イギリス政府がなだめすかした結果、2014年のスコットランドの国民投票で、スコットランドはイギリス残留を決めていますが、その後の総選挙でスコットランドの地域政党が大躍進する等、独立の火は消えた訳ではありません。
イギリス政府とスコットランド自治政府との取り決めで、国民投票は1回ポッキリ、と決定はしています。
ここで大切なのは、スコットランドはEU残留を支持しているという点。イギリスがEU離脱を決定すれば、元の経済的な前提が崩れる訳で、再度国民投票、という機運が高まっても何ら不思議ではありません。
で、再度スコットランドの独立の国民投票となれば、EU離脱を決定しているイギリス政府は非常に厳しい立場に追い込まれます。
仮にスコットランドの独立が決定すれば、かねてから独立問題を抱えている(今は下火になってますが、歴史的な根は相当深いんです)北アイルランドに飛び火する可能性も。そうなってしまうと、もうイギリスという国の形自体が変わってしまう事態の到来であり、イギリスのEU離脱、実はイギリスという国のパンドラの箱が空いてしまう可能性があります。
スコットランドと北アイルランドの場所を改めて確認すると結構広いんです
為替の動きにも注目
国民投票を前にポンド(ポンドドル)が、相場の節目に位置してスタンバイ状態。過去何年にも渡り維持してきた安値がついに底割れしてしまうのか?
イギリスのEU離脱問題、政治リスクもありますが、当然経済面にも影響があり、その影響は真っ先に為替に現れそうです。詳しくは下記をどうぞ。
まとめ
2016年はアメリカ大統領選、そしてイギリスのEU残留or離脱を決める国民投票と、世界的に注目される選挙が続きます(日本は7月に参院選、自民党は負けそうにないので世界的な注目はありませんが・・・)。
まずは6月イギリスはEU残留を決めるのか、それともさらばEUということになるのか。世論調査を見る限り、イギリス国民のEUに対するシンパシーは実はそれ程でもないように見受けられます。ただしEU離脱を決めてしまうと、スコットランドの独立他、パンドラの箱を開きかねない、という面も有しています。
果たしてイギリスはEU残留or離脱のどちらを選ぶのか?今後の展開に注目です。
PS 何と国民投票の結果イギリスはEUを離脱をすることに、えらいことになりました
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