PCデポがサービス契約の高額解除料金が炎上し、株価は約4割近く下げて暴落。ただし株価がいくら下がっても会社の財務状況に大きな問題が無ければ、会社が倒産することはありません。PCデポも現在の所、健全な財務状況を誇っており、目先倒産の可能性は非常に低いと言えます。
しかしながらPCデポの今回の問題、同社の屋台骨を支えるサービス部門で発生しており、今後のユーザーの出方次第では、一気に業績悪化のリスクをはらんでいます。拡大してきたサービス部門を支えるために、販管費=固定費も増加しており、PCデポはサービス部門の売上が減少すると赤字転落の可能性も有しています。
PCデポの今後は、今回問題が発生した+これまで同社の屋台骨を支えてきたサービス部門が鍵を握っていると言っても過言ではありません。果たしてPCデポの今後の株価の行方、そして同社の業績はどうなるのでしょうか?
概要
PCデポでサービス契約解除問題が発生
ネット上で随分と騒ぎになり、PCデポの株価暴落の引き金を引くこととなった、サービス契約解除問題。要は、高齢者に不必要なサービスをたくさん契約させて、解除の際に多大な解除料金を請求する、という内容です。超高齢化社会に突入している現代日本では、PCデポに限らず、各業界で同じような問題が発生していますが、PCデポは初動対応のまずさもあり、ネットで炎上。その結果、株価が暴落する自体となっています。ちなみにPCデポは東証1部上場企業。東証1部上場企業が何やってんだ、と思った方も多数。
PCデポのサービス契約解除問題、ライターのヨッピー氏が事の次第を詳細にまとめておられるので、詳しくはそちらをご覧ください。力作です。
初動対応のマズさが目立ったPCデポですが、社長が直接謝罪する機会は設けようとしています。最終的には契約者の息子ケンヂ氏が、謝罪の場に第三者の同席を求め話が流れてしまっています。本件、問題があるのはPCデポ側ですが、そうはいっても東証1部上場会社の社長が直接謝罪する場に、当事者以外の第三者の同席は、普通の会社であれば認めませんって。
ただ、社長が直接謝罪しようとした相手に対する対応としては、その後のPCデポの対応はお粗末すぎる、と言わざるを得ません。
PCデポが倒産する可能性は極めて低い
サービス契約解除問題で大炎上して株価は暴落したPCデポですが、目先で倒産する可能性は殆どありません。前期、2016/3期の決算内容は下記の通り。
2016/3期
売上高517億円、経常利益43億円、税前利益44億円、当期純利益28億円
資本金47億円で自己資本比率61%
立派に黒字を計上しており、自己資本比率も60%オーバーと小売業としては、非常に高い自己資本比率を誇っています。昨年(2015年10月)公募増資をしているので、資本の部が約40億円(資本金20億円、資本剰余金20億円)厚くなっている面が多分にはありますが。
当期の第1四半期も売上高125億円、経常利益14億円と好調を維持しているPCデポ、問題発生前の数字ではありますが、何ら問題の無い財務状況となっています。
PCデポは元々パソコンの販売店だった
古くからのPCユーザーならご存知の方も多いと思いますが、元々PCデポはパソコンの販売店。1999年にジャスダック市場に上場していますが、その際はPC販売店の上場、と話題になったものです。
パソコンの販売店が上場するんだ、とパソコン好きの管理人は当時思ったものです。
ただし、その後のスマホ等の普及に伴うパソコン市場の凋落はご存知の通り。気が付けばNECも単独でのパソコン事業存続はあきらめ、1999年当時は大人気だったVAIOを販売していたソニーはパソコン事業を切り離し等、日本のパソコン市場をめぐる状況はここ10年で大きく変化しています。下記の記事で日本のパソコンメーカーの歴史を振り返っているので、ご興味あればどうぞ。
日本のパソコン市場が激変する中で、PCデポ始めパソコン販売店も当然市場環境の激変に巻き込まれるわけで、PC販売の現場も大きな変化が生じます。東京の秋葉原や大阪の日本橋を歩くと一目瞭然ですが、多くのパソコン販売店は淘汰されてしまいました。まぁ、パソコン市場自体が大きく縮小しているので、時代の流れではあります。
そんな中、PCデポは気を吐いていた訳です。PC販売、という事業のみでは、このご時世前述のような業績を出すのはマズ無理です。そしてそのPCデポがパソコン市場の縮小の中で生き残りのために見出した手が、ユーザーに対するパソコン等のサービス事業です。
PCデポの売上の約50%を占めるまでになったサポート事業
実はここ最近、本件の前からPCデポのサービス事業が話題になることが増えつつあったのですが、数字を拾っていくと、そりゃ話題になるよね、という状況が見えてきます。下記にここ5年のサービス部門の売上と全体の売上を並べてみました(数字は同社決算短信より)。
12/3期サービス部門115億円/全体売上496億円(サービス部門比率23.1%)
13/3期サービス部門126億円/全体売上513億円(サービス部門比率24.5%)
14/3期サービス部門162億円/全体売上538億円(サービス部門比率30.1%)
15/3期サービス部門197億円/全体売上512億円(サービス部門比率38.4%)
16/3期サービス部門246億円/全体売上517億円(サービス部門比率47.5%)
16/6月(1Q)サービス部門67億円/全体売上125億円(サービス部門比率53.6%)
PCデポのサービス部門の売上は5年前の12/3期は売上に占める割合が23.1%でしたが、その比率は年々上昇して、遂には足元の16/6月の第1四半期では50%を超えてしまっています。いかにPCデポがサービス部門の成長に注力していたかが、この数字を見ても明白。
このサービス部門の利益率は決算短信では開示されていませんが、非常に高い利益率ではないかと推察されます。サービスと一言でいっても様々なサービスがある訳ですが、仕入れが発生する物販と違って損益分岐点を超えれば後は基本的に利益が積みあがる、というサービス事業のビジネスモデルから大きくずれてはいないハズ。
ただし忘れてはいけないのは、PCデポのサービス事業は、PCデポという店舗があって初めて成り立つ商売。だから、決算短信でセグメント情報の中で、サービス部門を、パソコン等販売事業に入れてサービス部門単体での利益率が分からなくなっているのは、仕方ない面はあります。(投資家としては開示してほしい情報ですけど)
現在もPCデポはパソコン販売店の看板を下ろしていませんが、現在の同社の利益の源泉は、PC販売ではなくてユーザーメンテナンス等のサービス事業になっている、と推察されます。
そしてこのサービス事業急拡大の中で、今回のサービス契約解除問題が発生しています。
ポイントは今後のサービス部門売上の推移
今回のサービス契約解除問題、同社の売上に間違いなく影響が発生すると考えられます。問題はその影響がどの程度のものになるか。第2四半期の数字が出てこれば、最初の影響を数字面で把握することができます。
ここまで結構なスピード感でサービス事業を伸ばしてきたPCデポ。既に同社の屋台骨を支えるまでになった事業なので、ここでその事業がこけてしまうと、非常に痛い。同社の小売部門単体での利益額は分かりませんが、今時パソコン等の販売で大儲けできる訳はないので、サービス部門の売上が減ると、同社の利益もダイレクトに影響を受けます。
今回の問題で、当期のサービス部門の売上の伸びは無いとして、その減少をどの程度で食い止めることができるか、ここがPCデポの株価を含めた今後を占う大きなポイントとなってきます。利益率が高いと思われるサービス事業、同事業の売上の減少は、同社全体の利益の減少に大きな影響を与えます。
PCデポの販管費の推移、12/3期→16/3期で約40億円の増加
ここまで来たら、PCデポの販管費の推移も見てみます。サービス部門、要は固定費に支えられていますが、固定費を上回る売り上げが上がると、一気に利益が出る、というビジネスモデルなので。
12/3期販管費122億円-売上496億円(サービス部門115億円)
13/3期販管費142億円-売上513億円(サービス部門126億円)
14/3期販管費152億円-売上538億円(サービス部門162億円)
15/3期販管費161億円-売上512億円(サービス部門197億円)
16/3期販管費165億円-売上517億円(サービス部門246億円)
サービス部門の拡大に伴って、販管費も当然拡大しています。12/3期と16/3期を比べると販管費は40億円以上増えています。気になるのは、15/3期→16/3期とサービス部門の売上は5年間で最高の約50億円の増加に対し、販管費の増加はこれまでで最小の4億円。それまで約10億円ペースで増やしてきた販管費ですが、16/3期は販管費の投資を抑制しています。前期16/3期は結構無理してるんじゃないかな、という想像ができる数字となっています。
そうはいっても徐々に増加している販管費、サービス部門が順調、もしくは少なくとも横ばいであれば、現状の利益水準の維持は可能ですが、コレが逆回転を始めると大変なことになります。
売上が減っても、販管費という固定費は簡単に減らすことはできません。よって販管費が膨らんでいる分、損益分岐点も上がっており、売上が以前の水準(サービス部門)に戻ってしまうと、以前と同様の黒字の確保は無理で、下手をすると赤字になりかねません。
PCデポの株価
今回の問題を受け、東証1部上場のPCデポ(PCデポコーポレーション:7618)の株価が大幅に下落しています。
「画像出典:マネックス証券/日本株取引ツール トレードステーション」以下同様
しばらく1,500~1,600円のゾーンにいたPCデポの株価は、今回の問題発覚で8月23日時点で899円。1,600円からで計算すると、下落率56%!株主からすると、PCデポのサービス担当者もやってくれた、と思わずにはいられない株価の下落っぷり。今回の問題の影響力の大きさ、株価の下落率に如実に表れています。
これまで急上昇してきたPCデポ株価
折角の機会なので、これまでのPCデポの株価推移も見てみます。下記は2012年以降のPCデポの週足チャート。
2012~2013年に150円付近をウロウロしていたPCデポの株価は、サービス部門の拡大を背景に株価も右肩上がり。2016年には1,600円も付けており、2012~2013年からズーッと株を持っていれば、株価は10倍になっていた銘柄。テンバガー銘柄、こんな所にもあった訳です。
今回の問題発生を受けて株価が下落しても、まだ2015年末から2016年初の株価水準に戻っただけ、とも言えます。2016年は日本株全体のパフォーマンスはイマヒトツですが、PCデポは2016年も問題発覚以前は堅調に右肩上がりの株価推移。こんな銘柄もあったんですね。
PCデポ株価の今後のポイント
相場で、落ちているナイフを掴んではいけない、ということわざがありますが、PCデポの株価は、まさに今落ちているナイフ状態。
正直、今の段階でPCデポの株価の今後を考えても、ファンダメンタルが現在進行形で変わっているので意味ない面もありますが、チャート的なポイントのみ。
週足チャートでみると、PCデポの株価のポイントは800円付近で止まるかどうか。ここで止まれば株価の下落が一段落する可能性がありますが、800円付近を明確に下にブレイクしてしまうと、次のサポレジは600円。
PCデポの株価下落800円で止まるのか、それとも600円まで行ってしまうのか、はたまたそれ以上下がってしまうのか。基本的に、現在のPCデポの株は超短期でデイトレ以外は手出し無用と考えます。
営業系の会社にはよくあるケースですが・・・
今回のPCデポの問題、正直営業系の会社にはよくあるケースと言っても差し支えないかと。
ただし問題は、お年寄り始めPCのことを何でも優しく教えてくれる、というイメージで売っていたPCデポのサービス事業、実は何のことはない、営業系の会社とやっていることは一緒だった、ということが白日の下にさらされてしまったという部分。PCデポのサービスのイメージ、結構よかったんですよね。今回の一件、要はタマにTVで問題となる営業会社が一人暮らしの老人にモノを売りつけて解約できない、という事件と一緒じゃないか、と世間に思わせてしまってます。
なぜか昔からパソコン設定係を公私ともにしている管理人としては、PCデポのサービスは評価していたのですが、うーむ残念です。
再発防止策は証券会社のコンプライアンス担当方式はいかが?
今回の問題発覚を受けて、PCデポでは社長直属の対策室を設けて社員教育を徹底するそうです。しかし、社員教育や研修でその会社の文化が変わる訳はありません。これは多少なりとも会社勤めしていれば、誰しも分かるのでは。
PCデポにとって、サービス事業は会社の生命線なので、今後なんとしても立て直しを図る必要があります。とは言え現場の人らに、明日から違う方針で・・・、といってもそう簡単に”業績をあげながら”、ハイそうですか、とはなりません。
完全に頭の体操ですが、証券会社方式のコンプライアンス(コンプラ)担当的な責任者を各店舗やエリアに配置してはいかがでしょ?サービスの契約内容を逐一チェックして、問題があれば契約のやり直しから、再度の説明まで現場に指示する。営業の会社、と言えば証券会社は第一集団で出てきますが、コンプラ担当の存在のため、あまりに行き過ぎた営業は現在は制度上できなくなっています。(それでもタマに高齢者にハイリスクの商品を販売したと問題が報じられますが。ちなみに、そういったケース殆ど証券会社の負けです、だからこそコンプラ担当の責任は重大だったりします)
小売業のPCデポにそこまでさせる必要があるのか、とも思いますが、今回の問題は内部統制、という問題もはらんでいるため(内部の牽制機能が働いているようには思えません、PCデポは立派な東証1部上場会社です)、社員教育という対応策だけでなく、組織論的な対応策も必要不可欠ではないか、と強く感じます。
まとめ
ツイッターが契機となり、株価が大幅に下落する、という事態にまでなったPCデポのサービス契約解除問題。サービス部門の拡大で、PC不況を乗り切ったPCデポですが、そのサービス部門が問題の発端となっており、今後の対応を誤ると会社の屋台骨を揺るがしかねません。既にPCデポの、お年寄りに優しい、というイメージは崩壊しかかっており(まだ本当にネットに不得手な層に、今回の問題発生は届いていません)、いくら財務的に余裕があるとはいえ、サービス部門の拡大とともに販管費も膨らんでいるPCデポにとっては、サービス部門の売上減少=赤字、に直結しかねません。
古くからのパソコンユーザーで、パソコン市場の元気のなさを憂慮していた管理人にとっても、今回のPCデポの問題は非常に残念に思っています。
PCデポの今後の株価、そして会社の行方はどうなっていくのでしょうか?株価の下落だけで会社がつぶれることはありませんが、そうはいっても、株価は会社の未来の鏡、とも言えます。何はともあれ今後の同社のサービス部門の売上がどうなっていくのか、にかかっているのは間違いありません。
パソコンファンの一人として、PCデポの今後の行方を注意深く見守っていこうと思います。
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