経営危機にある東芝が打ち出した医療部門の東芝メディカルの売却。実は東芝メディカルの売却が東芝再建に向け、東芝が放った最強の手になる可能性が。数千億円と言われている東芝メディカルの売却額、これによって東芝は一息つける可能性が。
果たして東芝メディカルはいくらで売れるのか?入札額に注目です。(2016年3月9日更新)
概要
東芝は東芝メディカルを売却へ
東芝にとって元々注力事業であった医療部門を担う東芝メディカル。今回の経営危機によって、黒字部門でもある東芝メディカルの売却方針は、昨年の東芝の再建プラン発表の際に表明されています。
そうか黒字部門まで売却していまうのか・・・、とさらっとIR資料を読んでましたが、実は東芝メディカルが東芝再建の切り札になるかもしれない、と思ったのは、どうやら東芝メディカルが結構いい値段で売れそうなので。
「東芝医療機器子会社、日立が買収検討 “優良事業”争奪戦、金額高騰も」(産経Biz)
東芝メディカルの売却価格数千億円になる、だそうです。
数千億円が2,000億円なのか7,000億円なのか、”数千億円”という言葉だけでは分かりませんが、千億円単位で東芝に現金が入れば間違いなく東芝は一息つくことができます。どうやら東芝メディカルの売却が、東芝経営陣が立案した東芝再建に向けた最大の作戦となりそうです。
東芝メディカルについて
東芝メディカル(正式名称、東芝メディカルシステムズ株式会社)は東芝の100%子会社で医療用の画像診断装置等の開発を行っています。CT(コンピューター断層撮影装置)では、GE、シーメンスについで世界3位の市場シェアを有しています。
2015年3月期は売上高2,799億円、経常利益221億円、当期純利益158億円と、危機の最中にある東芝にあって黒字を維持しています。
(東芝メディカルの決算は開示されています→http://www.toshiba-medical.co.jp/tmd/company/aboutus/epub/)
東芝メディカルの手がける医療用の画像診断装置分野は、世界的にまだまだ成長が期待されており、その市場で既にメインプレイヤーとして活躍している東芝メディカルは、世界的に見ても優良企業と言えます。
そしてそんな優良企業が、親会社の事情とはいえ売りに出される訳です。
これはもうライバル会社始め、多少高い金額を払って取りに行ってもおかしくない会社、と言えます。
東芝メディカルの売却候補先の会社やファンド
将来有望な分野で、既に活躍している東芝メディカルの売却。これまで売却先として名前の挙がっている先は下記の会社やファンドとなります。
・日立製作所
・富士フィルムHD
・ソニー(買収を見送る模様、1/28日経新聞より)
・キャノン
・コニカミノルタ
・三井物産
・GE
・KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ、米系投資ファンド)
・ペルミラ(英系投資ファンド)
・サムスン
世界の名だたる企業やファンドが東芝メディカルの売却先として名前が出ています。
今回の売却は入札形式で行われるため、最も高い値札を入れた先が東芝メディカルを買収することに。東芝は1月中旬にも金融機関を通じて、入札を開始するようです。
東芝としては何かとライバル視される日立には売りたくないでしょうが、日立は医療画像機器部門が弱くテコ入れを図ってる所なので、腹を括って取りに来る可能性があります。
キャノンは新社長がお披露目の席で、東芝メディカル買収は千載一遇のチャンス、とまで語っています。
三井物産はKKRと企業連合を組んで入札に参加の見通し。
コニカミノルタはイギリスの投資ファンドであるペルミラと組んでの入札を検討中。
一方、外資系ではGEは東芝メディカルとシェア争いをしているライバル会社。当然、取りに来るでしょう。
ちなみに1月25日発売の「週刊ダイヤモンド」によると、東芝メディカル買収の有力候補は富士フィルムとKKRということ。そして買収額は5,000億円は下らない、とのこと。
宝の山とも言える東芝メディカル、買収を巡って水面下では様々な情報が飛び交っているようです。
東芝メディカルの入札の開催時期は1月末。決戦の時は近いです。
東芝メディカル売却、1次入札の通過先
2016年2月6日の日本経済新聞に東芝メディカル売却の1次入札の通過先が報じられていました。
・キャノン
・富士フィルム
・コニカミノルタ+英系ファンドのペルミラとの連合
・三井物産+米系ファンドのKKRとの連合
金額の詳細は明らかにされていませんが、2月4日の東芝の決算発表の場で、報道された(数千億円という)額より高い、と東芝の社長がコメントしてます。数千億円のレンジは幅が大きすぎるので何とも言えませんが、2~3,000億円という最低限の価格はクリアしていると推察されます。
今後については2月中に2次入札を実施、そして3月末までに売却先を決定する、というスケジュールで進んで行きます。
各報道を見ていると本命は富士フィルムの様子。ただ他の会社も伊達や酔狂で入札に応じている訳ではないので、どの会社が本気で取りに来るか、というのがポイントと考えられます。その意味では、自社の判断で金額を決められるキャノンと富士フィルムが有利ではあります。
東芝メディカルの売却先がどこの会社になるのか、そして最終的にどんな金額になるのか、今後も注目が集まりそうです。
東芝メディカル、2次入札の応札先
東芝メディカルの売却、2次入札が行われています。 2016年3月5日の日本経済新聞に東芝メディカルの2次入札について詳細が報じられています。応札したのは下記3陣営の模様。
・キャノン
・富士フィルム
・コニカミノルタ+英系ファンドのペルミラとの連合
企業価値は約7,000億円規模となっているようで、日経新聞によるとEBITDA倍率は約25倍。
EBITDA25倍ですか、随分高い値段がついてるな、というのが率直な印象。東芝にとっては悪い話ではありませんが。コニカミノルタは1次入札の際より低い値段で応札しているようなので、キャノンと富士フィルムの一騎打ち、と言う状況です。
100%買収であれば約7,000億円全額、半分でも約3,500億円。EBITDA25倍でも欲しい、と相手に思わせる東芝メディカルは三国一の花嫁、といったところでしょうか。
売却先の決定は3月7日の週にも行われる模様。果たして東芝メディカルを獲るのは、キャノンか富士フィルムか?
最終的には東芝はキャノンに東芝メディカルを売却する腹を固めた様子
どうやら東芝メディカルを取得するのはキャノンになるようです。
「東芝メディカル、キヤノンに売却へ…7千億規模(読売オンライン)」
東芝メディカルを本気で取りに行っていたキャノンと富士フィルムですが、最終的にはキャノンが勝者となる見通し。減損問題を抱えて早期に現金を手にしたい=自己資本を増強したい東芝にとっては、早期に売却ができる先を選んだ、ということのようです。
富士フィルムは既に医療事業が事業の柱となっており、独占禁止法上の審査が必要となり最終的な売却まで時間がかかる可能性があるのに対し、キャノンは医療事業はこれからの状態。よってキャノンであれば独占禁止法上の審査に時間はかからない=早期に売却可能、との判断。
実際両者がいくらの金額を提示したのか非常に興味深い所ですが(3/10の日経によると、富士フィルムは6,500億円+東芝の増資引受を提案し、キャノンは7,000億円強を早い段階で提案していた様子)、キャノンに対し約7,000億円で売却できる見通しなので、東芝にとっては予想以上に高く売れた、という結論になりそうです。
東芝メディカルは入札で売却へ
東芝メディカルの売却金額の予想をザックリと
詳しい決算は開示されていませんが、それでも実は決算書は開示されている東芝メディカル、ザックリと予想される売却金額を考えてみます。
2015年3月期の業績は売上高2,799億円、営業利益177億円、経常利益221億円、当期純利益158億円。
営業外収益で受取配当金40億円を計上。一方、減価償却費は分からず。そんな訳で、仮に東芝グループから外れて受取配当金が無くなっても減価償却がキャッシュフローでは計上されると考え、ザックリと220億円が東芝メディカルの償却前利益と仮定します。
M&Aで企業を売ったり買ったりする際は、この償却前利益(EBITDA-イービットディーエー)の何倍か、という観点で議論がされますが、通常であれば5~10倍と言った所。
償却前利益220億円×5~10倍=1,100~2,200億円
さすがに5倍では東芝も売ることはないとして10倍とすれば、東芝メディカルの理論的売却額は約2,000億円と考えられます。
ちなみに51%以上の売却と東芝は表明していますが計算を分かり易くするために100%の売却としました。
相当ザックリとした計算ですが、大体の目星をつけるという観点でやっているので、詳しいツッコミはご容赦ください。。。
そして入札する各社は、約2,000億円にどの程度プレミアを付けて入札するか、というのが見所。高くても腹を括って買いに来る先が多くあれば、思わぬ高値が付きますし、基本の約2,000億円から多くは出せません、という会社だけであれば、2,000~3,000億円という値段に落ち着きます。
各社が将来性を見込んでいて、既に業界での地位も確立している東芝メディカル、腹を括って取りに来る会社は普通出てくるものですが。
企業価値約7,000億円でEBITDA倍率25倍なら
2次入札の報道にあるように、東芝メディカルの企業価値が約7,000億円・EBITDA倍率約25倍、ということであれば下記の計算式で償却前利益を求められます。
企業価値7,000億円÷EBITDA25倍=償却前利益280億円
東芝メディカルの償却前利益は約280億円。
当初220億円程と推定しましたが、償却前利益は予想より多かったようです。
そんな訳でEBITDA10倍で約2,800億円の企業価値と考えられる東芝メディカル。報じられているように、EBITDA25倍で企業価値7,000億円ということであれば、思わぬ高値での売却となるため、東芝にとっては願ってもない展開となります。
東芝の貸借対照表(B/S)から東芝メディカル売却の影響を考えてみる
少なく見積もって2,000億円では売却できそうな東芝メディカル。東芝にはどんな影響があるのか、貸借対照表(B/S)から考えてみます。
2015年3月期の東芝のB/S
まず最初に東芝の売却益
東芝メディカルの資本金230億円なので、2,000億円での売却としても1,800億円近い株式売却益が出る可能性があります。(東芝メディカルの簿価がそのまま、というのが大前提)
以前の記事にも書きましたが、このまま行くと2016年3月期の東芝のB/Sは、その他資産(主に原発関連の”のれん代”)=純資産、となります。
正直、東芝の財務状況、何も手を打たなければ全く余裕がない状況となってしまう訳ですが、東芝メディカルの売却益が発生すると、仮に原発関係の”のれん代”を全額償却したとしても、純資産=自己資本は東芝メディカルの売却利益分の維持が可能になります。
恐らく、ここが東芝の経営再建計画の数字の部分では根っこの部分。
原発関連資産の減損が時間の問題となる中、本業で大赤字を出して減損の前に自己資本をすり減らしている東芝、生き残りの為の資金調達手段として東芝メディカルの売却を選んだ、ということではないかと。
東芝メディカルがいくらで売れるか分かりませんが、1,800億円以上の売却益が計上できてれば最悪の場合でも債務超過転落は免れます。そして2016年3月期決算を減損があっても乗り切れば、膿は2016年3月期に出し切っているので2017年3月期からはV字回復が可能、と踏んだのでは。
そんな訳で将来性もあり黒字の優良子会社東芝メディカルは、東芝本体存続の為に売却されることになります。けどコレがなかったら東芝本体が債務超過転落の可能性も。
けど、まだ売るもののある東芝はシャープに比べると恵まれています。老舗は掛け軸を売ってもお金になる、と金融危機の時のメガバンクに対して言われましたが、フトそんな言葉を思い出しました。
ちなみに、東芝の株価はチャートを見ると結構重要なポイントに差し掛かっています。更に下落すると一気に下落が加速の可能性がありますが、東芝メディカルの売却が成功等が材料になって、どうにか踏ん張ることができれば、上昇に反転することも期待できる価格に位置しています。
下記で東芝の株価の今後について予想してみました。
まとめ
東芝メディカルの売却と東芝の財務状態、どこかから何かを持ってきて、何かの埋め合わせをするという、ブロックの組合せとイメージすると分かり易いです。
と上記のように特にB/Sから考えると、さらっと流していた東芝メディカルの売却、東芝にとっては存亡をかけたディールと言えます。当然ながら問題は売却額。数千億円、と言われている金額、果たして2,000億円程度になるのか、それとも7,000億円くらいまでいってしまうのか。
いずれにしても東芝メディカルの売却額が今後の東芝の浮沈を左右すると言っても過言ではなさそうです。
ただし理論価格に近い金額の売却でも東芝は財務的に一息つくことができ、V字回復に向け次なる手を打つ余裕が出てきます。
ともあれ東芝メディカルの売却で、東芝は財務的には一息つくことができそうです。果たして東芝メディカルがいくらで売れるのか、売却価格に注目してみようと思います。
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