ジャパンディスプレイ(JDI:東証1部6740)がシャープの液晶部門を買収へ、と報じられています。その額500~1,000億円。シャープとはライバル関係にあるJDI、シャープの液晶部門の買収がなされれれば、中小型液晶市場で世界トップシェアに立つことができます。
しかしながら価格決定権がスマホメーカーにある中、世界的に競争の激しい中小型液晶、JDIはシャープの液晶部門を買収しても、足手まといになれば、JDI自身が大怪我するリスクもあります。
半分国策であり、もうJDIに拒否権はなさそうなJDIによるシャープの液晶部門の買収、果たしてうまく行きそうなのか。主に株価の面から探ってみました。
シャープの株主から見ればたまったものではありませんが、他社との競合の影響を避けJDIはいかに安くシャープの液晶部門を買収できるかが、鍵になります。
概要
そうかJDIがシャープの液晶部門を買収するのか、総額500~1,000億円
やはり、という流れになっています。12月19日(土)・20日(日)にJDIがシャープの液晶部門を買収、という記事が新聞各紙に掲載されていました。
「シャープの液晶事業、JDI通じて買収提案へ 革新機構(朝日新聞)」
朝日新聞には買収金額が乗っていませんが、日経新聞は500~1,000億円と報じていました。そうか遂に金額まで出てきたか・・・。ちなみに、今回買収が噂されている液晶というのは、スマホ向けの中小型液晶のことです。TV用の大型液晶部門は既にシャープ本体から切り離されて、提携先のホンハイとの合弁会社となっています。
ライバル関係にあるシャープとJDIですが、遂にシャープがJDIの軍門に下る日が近付きつつあるようです。シャープとしてはJDIに敗れたというより、国策液晶会社に敗れた(JDIは官民ファンドの産業革新機構が音頭をとって、日立・ソニー・東芝の中小型液晶部門を統合して発足)、という感じかもしれませんが。
ただし、勝敗は兵家の常なれど、いずれにしても負けは負けです。
ジャパンディスプレイ(JDI)はシャープの影響を買収する体力はある
その名前は知れ渡っているシャープですが、一方のジャパンディスプレイ、JDIと言われても、殆ど名前は知られていません。前述のようにJDIはJDIは官民ファンドの産業革新機構が音頭をとって、日立・ソニー・東芝の中小型液晶部門を統合して2002年に発足。2014年には東証1部に上場を果たしています。
そんなJDIですが、シャープの液晶部門を買収する余裕は500~1,000億円程度であれば問題なくあります。JDIの2015年3月期の貸借対照表(B/S)、概要は下記の様になっています。
自己資本比率約50%ということで、メーカーとしては極めて安定した自己資本比率を保っています。自己資本というのは、簡単に言えば”手金”です。手金が多ければ多いほど、冒険=リスクも取れます。
日経で報じられている通り、JDIのシャープの液晶部門の買収額500~1,000億円とすれば、JDIとすれば今の体力であれば充分に買収を行えるだけの体力がある状態となっています。
ちなみに、上記の朝日新聞の記事に、産業革新機構がJDIに資金支援して・・・、というのがありますが、これはどうかな、と思います。産業革新機構がシャープに出資することはあっても、既に投資して一部でも回収したJDIに再投資するというのは、投資ファンドの運営と言う観点では、非常にイレギュラーな状態となります。
この辺りはまた詳しく分かってきたら、別途記事にしようと思います。
シャープの液晶部門の売却価格は安すぎないか?けど株価からは妥当
シャープの液晶部門の売却価格500~1,000億円ということですが、安いよなぁ、というのが正直な印象。JDIがシャープの液晶部門の51%を買収と考えても、シャープの液晶部門の評価額1,000~2,000億円。シャープの設備投資額を考えれば、間違いなく安過ぎます。
けどシャープ本体の株価を見ると、案外これが妥当な数字だったりします。
シャープ(東証1部6753)12/18(金)株価120円
・時価総額2,041億円
・PBR1.21倍
実はシャープの時価総額2,000億円です!
シャープ本体、全事業を合わせても株式市場は2,000億円の価値しか見出していません。
と言うことは液晶部門の評価額1,000~2,000億円というのは極めて妥当な金額。2,000億円だとシャープの評価額=液晶部門の評価額、と言うことになります。
買収の際は、のれん代=プレミアムを加味する場合が殆どなので、シャープの評価額=液晶部門の評価額、とはなりませんが、いずれにしてもJDIがシャープの液晶部門を買収すると報じられている上限1,000億円=シャープの液晶部門の価値2,000億円というのは、株式市場という観点からすれば、極めて妥当、それどころか若干高い可能性のある価格と言えます。
しかしいずれにしても、シャープの株価は随分と安くなってしまったものです。シャープの過去の株価及び今後の株価の予想を下記で行っているので、よろしければ合わせてご覧ください。
ジャパンディスプレイ(JDI)の時価総額もシャープと同じく約2,000億円
これは調べて驚いたのですが、ジャパンディスプレイの時価総額もシャープとほぼ同じ2,000億円!
ジャパンディスプレイ(JDI:6740)12/18(金)株価342円
・時価総額2,056億円
・PBR0.51倍
知名度では圧倒的にシャープ>JDIですが、時価総額的には遂に並びましたか。JDIは中小型液晶の会社ですが、シャープ全体では液晶他様々な部門を有しているのに、株式市場はシャープの評価をJDIと同じ程度にしか見ていない、ということ。
ね、ここにアレっ?、と思う部分がありますよね。そうですシャープの株価、割安すぎないか?要は赤字の液晶部門切り離して、リストラして・・・、とすれば充分株価上昇の余地あるのでは?
個人がこの推測で株を買うのはリスキーな勝負ですが、大口の資金でシャープに出資してリストラを主導して・・・、とすれば儲けられるチャンスあるように感じますね。ここで登場するのが再生ファンド、ということになります。そんな訳でシャープには既に多くの再生ファンドが提案書を持って出入りしていると考えるのが普通です。
話を戻してJDIですが、確かにシャープと同程度の時価総額で喜ばしい事ですが、PBRは1倍割れています。JDI、スマホ向けの液晶の製造を行う会社、ということでピカピカしている会社のイメージはありますが、PBRで見ると、株式市場はその価値を決めあぐねている状態。
PBR1倍割れ、というのは企業の価値が正当に評価されていない状態、とも言えますが、あまり近付きたくないから放置されている、という状態とも言えますので。
PBRについて詳しくは、以前のPBR解説記事をご覧ください。
JDIがシャープの液晶を買っても簡単に儲けられる状況にはない、いかに安く買えるかが鍵
実はこの記事、JDIは高い買い物せざるを得ないのね・・・、と思って調べ始めた結果こんな内容になってます。まさかシャープの時価総額、ここまで下がっていたとは。チャート屋なのでシャープの株価は見てましたが、時価総額は見てませんでした・・・。
ライバル関係にあるシャープとJDI。JDIがシャープの液晶部門を買収できれば、シェアを買うという観点では、JDIにとって非常にメリットのあるM&Aと見えます。しかしながら、大前提として安く買うことができれば。
極端な話で実現性はさておき、JDIがシャープの液晶部門1,000億円で買収して(51%分)、シャープの人や設備も大幅にリストラして、JDIの自社設備の稼働率アップを主眼に置けば(足りない分をシャープの設備で補う)、アッと言う間にJDIは高収益企業となります。
ただしJDIの液晶確かに高く評価されているのでしょうが、基本的に価格決定権があるのはスマホメーカー(それも海外の)。そしてライバルの多い液晶市場、シャープを買収したとしても、それほど楽な商売はさせてもらえません。
更にJDIは、今後スマホの世代交代の度に必要とされ果てしなく続く設備投資を継続する必要があります。設備投資額は何千億単位で必要となって来るため、正直余計なお金は使えない状況。特にアップルがアイフォンに有機ELを採用する、と発表しているので、有機ELの開発と設備投資も考えれば、公募等で資金調達したいくらいではないかと。何せライバルのLGは有機ELに1兆円投資します、とブチ上げていますし。
JDIも決して楽な状況ではないので、シャープの液晶部門の買収、国策液晶会社として断るという判断はできないとしても、出来るだけ負担の無い形で、と言うのが本音と考えられます。
シャープの側から液晶部門の売却を見る、高く売らなければ株主から訴訟の可能性も
シャープの側から見れば、液晶部門の評価額1,000~2,000億円というのは、安く見られたもんだな、という感じでは。けど上述の通り、株式市場はシャープ全体で2,000億円という評価なので、シャープの一部門の中小型液晶で評価額1,000~2,000億円というのは、まぁこんな感じ、です。
ただし、やはりこの金額は安過ぎますよ、ということで再生ファンドがウチは5,000億円の評価つけますわ、と来た時にシャープはどんな判断をするのか?
国の意向なのでJDIに安く売却します、とやったら善管注意義務違反で株主に訴えられます。じゃあ外資系なりファンドに売るという経営判断がシャープ経営陣にできるかどうか?シャープの経営陣は中小型液晶部門を売ると判断しても、次にどこにどんな値段で売るのか、という非常に悩ましい決断が迫られます。
JDIのライバル会社からすれば、最終的にシャープの液晶部門をJDIが買収するとしても、なるべく高い値段で買ってもらってJDIに体力を消耗してもらうのが得策。ファンドを使う等して、シャープの売却額を吊り上げるのは、誰しも考えますし、買収の嫌がらせに負けるの前提で株価のつり上げを行うのは、過去いくらでも例がありますので。
JDIとすれば、買うならなるべく安く買いたいシャープの液晶部門。一方シャープとしては、なるべく高く売りたい液晶部門。この辺り、外資系ファンド等が途中に名乗りを上げて、買収価格がつり上がっても不思議はありません。
シャープとJDIを合算すればスマホ向け液晶の世界最大手に(日本経済新聞2015/12/19より)
まとめ
いよいよ佳境を迎えつつあるシャープの液晶部門の売却。産業革新機構が絡んでおり、もう国策で液晶事業はJDIに統合、という方向になりそうではあります。
ただしそこに至るまでにはまだ紆余曲折がありそうです。意外や意外、シャープ経営陣が一番高い買収価格を提示した外資系に液晶部門を売ってしまった、ということだってあり得ますし。
けど、シャープも液晶部門を売る、というのであれば、その判断は遅すぎました。もう完全に足元を見られている状態であり、第一回の経営危機の際にどうにかしていれば、まだ主導権を持った形で、更に得るべき対価も段違いに多かったと考えられます。まぁ、たら・れば、に意味はありませんが。
競争の激しい業界でシャープとJDIが共倒れになるよりは、JDIがシャープを買って生き残る、という判断は”あり”ではあります。ただしスマホ向け液晶業界、競争相手が海外の会社ですし、継続的な設備投資が必要とされる業界故、これで大丈夫、という訳ではありません。
どうやらシャープの液晶部門の切り離しは避けられそうにありませんが、果たしてどんな形、そしてどんな株価=企業評価でシャープの液晶部門は売却されていくのか?JDIは今後の負担の無い安い価格でシャープの液晶部門を手にいれることができるのか?
シャープの液晶部門の売却、今後に注目です。
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