ワタミに倒産の足音、介護事業売却か居酒屋の復活か?

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 居酒屋チェーンの「和民」他を運営するワタミの経営が悪化。遂に倒産の足音が迫りつつある事態にあるようです。

 居酒屋業界で時の会社となったのも束の間、ここ最近ワタミはM&Aによって参入した介護事業が会社を支えていた状態。そして、そんな介護事業も遂に黒字が縮小傾向に。

 銀行からの借入金の条件(財務制限条項:コベナンツ)により、今季黒字化がならないと借入金の一括返済が求められる事態にもなりかねません。

 ワタミはこの苦難をどうやって抜け出すのでしょうか?まずは当期の黒字化は必達。噂されているように介護事業を売却して急場を凌ぐのか、それとも本業の居酒屋の立て直しに成功するのか?目が離せません。(2015年10月5日更新)

ワタミと管理人

 管理人、ワタミには強烈な思い出があります。地方出身の管理人、東京に行った時、当時は首都圏にしかなかった居酒屋チェーンの「和民」に初めて行きました。驚いたのはその値段の安さと料理のウマサ。何てコスパの高い店なんだ!、とある種の感動を覚えました。
 もうそれ以来、居酒屋に行く際は「和民」を愛用しています。かれこれ20年近く前のお話ですが、その頃から「和民」のファンだったりします。

 ただし最近は考えてみれば、チェーン店系の居酒屋はトントご無沙汰しています。そんな中でワタミ窮状をニュースで知ることになりました。

「ワタミ、身売り話も飛び出した三重苦の実態」(東洋経済オンライン)

ワタミの株価推移と3期分の決算

 まず最初にワタミの2年分の株価推移と、3期分の決算状況を見てみます。

ワタミ(東証1部7522)の2年分の株価推移

ワタミの決算
2015/3期売上高155,310百万円-経常利益▲3,406百万円-当期純利益▲12,668百万円
2014/3期売上高163,155百万円-経常利益2,133百万円-当期純利益▲4,912百万円
2013/3期売上高157,765百万円-経常利益8,021百万円-当期純利益3,540百万円

 2014/3期から当期純利益ベースでは赤字でしたが、2015/3期は遂に経常利益ベースでも赤字。経常利益が赤字ということは、本業が回っていないということ。2016/3期予想数字は、売上高148,800百万円、経常利益500百万円、当期純利益1,000百万円。経常利益500百万円ですか、実質的にはどうにか収支トントンを目指します、という計画になっています。

 そして業績の悪化もあり、株価はダダ下がり状態。まさかワタミがこんな状態だったとは・・・。

ワタミの苦境、居酒屋の赤字

 今のワタミは「居酒屋」「介護施設」「宅食」の3つの事業から構成されています。当然、本業は祖業の居酒屋。その居酒屋事業は2期連続で赤字となっています。

2015/3期売上高60,272百万円-セグメント損益▲3,699百万円
2014/3期売上高60,928百万円-セグメント損益▲1,917百万円
2013/3期売上高78,588百万円-セグメント損益3,605百万円

 3期分の数字を見てザックリ計算すると、ワタミの外食事業の損益分岐点は売上65,000~70,000百万円。
 2014/3期→2015/3期は売上はほぼ横ばいですが、赤字急増要因は店舗の撤退等でしょうが、損益分岐点が大幅に下がらないと、このまま赤字が続く可能性大です。

 けど外食産業、ダメになるときは一気にダメになりますが、ワタミのその例にもれません。
 ブラック企業という批判もあったワタミ。その影響も当然あったでしょうが、それにしても居酒屋事業の赤字が止まらないのは非常に痛いです。

 ちなみに今季の第1四半期も売上11,303百万円、セグメント損益▲503百万円と止血が出来ていません。正直厳しいですね、コレは。

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昔よく行った和民がこんな状態になっていたとは・・・

ワタミの介護事業も減収傾向、そして赤字転落

 ワタミの居酒屋事業の赤字の反面、何とか頑張っていたのが介護施設事業。

2015/3期売上高35,404百万円-セグメント損益2,399百万円
2014/3期売上高35,029百万円-セグメント損益3,631百万円
2013/3期売上高28,486百万円-セグメント損益4,935百万円

 黒字を維持しているワタミの介護事業ですが、直近3年では2013/3期をピークに利益が減少しています。2015/3期は2013/3期と比べると利益が半分以下になってしまっています。

 少子高齢化社会の進展で、市場は伸びている介護事業ですが、そこでの利益半減、こちらも痛いですね。
 そして後述しますが、2016/3期の第1四半期は介護事業も赤字になってしまっています。

介護事業と言ってもマンション賃貸と同じビジネス

 介護事業と一言で言っても、ワタミの行っている介護事業は、介護付き老人ホーム事業。そして介護付き老人ホーム事業は、実はビジネスの実態は、賃貸マンションとほぼ同じビジネス。

 マンションを建てて、そこに入居してもらう、ベースはこれです。

 当然、介護施設を作ったり・介護士を配置したり・医療機関と提携したり等はありますが、ビジネス=商売としては、部屋に入居してもらって家賃を頂戴する、です。

 このビジネスで利益減少というのは、単純に言って入居者が減った、ということです。
 直近のワタミの介護施設の入居率は78.0~78.5%。3年前の2013年8月は入居率88.0%なので、約10%のダウン。マンションで入居率が10%落ちるって、結構深刻な事態です。
 入居率を上げれば問題解決ですが、7月時点で施設数113。施設数が多いだけに、入居率のアップ、そう簡単には数字は上がりません。

 ちなみに業界最大手のメッセージは2015/3期末の時点で入居率96.47%。ワタミの入居率約78%の苦境が分かります。

関連記事;介護施設アミーユを展開のメッセージの業績と株価のポイント

 数字的には黒字を維持しているワタミの介護事業ですが、マンション賃貸というビジネスの観点でいうと、介護事業も黒字ではありますが黄色信号が灯っている状態です。

 まぁ入居率アップすれば問題は解決なのですが、ワタミの場合は施設の絶対数が多く分母が大きいのと、介護施設に入居者を紹介してもらうために医療法人や社会福祉法人への地味な営業が中心にならざるを得ず、営業強化!、と言っても即効性はなかなか期待しにくい分野なんです。

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ワタミの財務制限条項とは?

 東洋経済オンラインの記事に気になる記載があります。

ワタミは介護事業に関連し、金融機関との間で財務制限条項付きの契約を結んでいた。ところが、近年の業績低迷により、2014年度末にこの条項に抵触した。そこで今年7月、条項を「連結ベースの純資産額を2014年度末に対して100%以上を維持する」という内容に変更することで、金融機関と合意。何とか急場をしのいだ。
ただし、今年度も最終赤字になるようだと、純資産は2014年度末よりも減少してしまう。つまり、黒字化が不可欠なのだ。

 ワタミは銀行との借入に関して銀行と条件付きの借入契約を結んでいたようです。いわゆる財務制限条項=コベナンツ、というやつです。
 財務制限条項というのは、銀行がお金を貸す際に、こういう状態になったらお金返してね、というもの。通常の融資とは異なりますが、会社というより何らかのプロジェクトに融資する際等によく利用されます。
 よって財務制限条項自体は、銀行にいいようにやられた、ということにはなりません。プロジェクト型の融資ではよく利用されているので、その存在は驚くには当たりません。(逆に財務制限条項がなかったら、この銀行ちゃんとリスク分かって金貸しているのか?、という状態)

 そしてワタミへの融資。ワタミのIR資料を見ると、下記の記載があります。

介護施設の入居金返還債務に係わる取引銀行の支払承諾契約の一部(保証限度額5,740百万円、要保全入居金残高5,302百万円)には、財務制限条項があり、当社グループはこの財務制限条項に従っております。
 財務制限条項は次のとおりでありますが、これらに抵触した場合には、保証人である取引銀行から保証委託者であるワタミの介護㈱に対する事前求償権の行使を受ける可能性があります。また、当社は事前求償債務について連帯保証をしております。
 ①各年度の決算期の末日における連結貸借対照表上の純資産の部の金額を平成24年3月決算期末日における連結貸借対照表上の純資産の部の金額の75%以上に維持すること。
 ②各年度の決算期における連結損益計算書に示される経常損益が、2期連続して損失とならないようにすること。

 なお、当連結会計年度末時点において、支払承諾契約に付されている上記財務制限条項の①に抵触しました。事前求償権の行使を受けた場合、要保全入居金残高5,302百万円を直ちに取引銀行に支払う必要があります。このため、取引銀行から事前求償権の行使猶予の同意を得るとともに、財務制限条項の変更と適用保証料率の変更手続きを進めております。
「ワタミ2015/3期連結・個別注記表」

 へぇ、こーいう契約だったのね。やはり企業の財務分析、個別注記表も見ないとダメですね。

 えー、どういうことかと言うと、マンションの例で言えば、入居者から敷金を預かりますよね。これが入居金返還債務。そして入居者が出て行くと、当然敷金を返さないといけません。いわゆる敷金部分は別口座に置いておいたり、金銭信託にして管理している会社もあるようですが、ワタミは銀行と融資契約を結んで(限度額5,740百万円)、退去者が出ると銀行から借入れを起こして敷金を返済していたようです。

 で、ここから先が問題で、①2014/3期の純資産の部の金額の75%を切ったり、②2期連続赤字になったら、貸してるお金(5,302百万円)、耳揃えて返してね、ということ。

 そして2015/3期は赤字決算で、見事に①に該当してしまったものの、何とか銀行に勘弁してもらった、というのが今のワタミの状況。

 ワタミもさることながら、銀行も相当胆を冷やしたと推測されます。
 ちなみに、ワタミのメインバンクは横浜銀行です。多分、こんなことになるなんて夢にも思っていなかったのではないかと。
 2015/3期末のワタミの現預金保有残は9,396百万円。銀行から請求があれば、払えなくはないですが、一気に現預金半減なので、シャレにならない事態になります。

 恐らく2016/3期にもう一回お願い、というのはないでしょう。少なくとも②2期連続連続赤字が点灯したら、もう言い逃れできません。そんな訳で、ワタミは2016/3期の黒字化は会社存続の為にも必達目標となっています。

ワタミの2016年3月期第1四半期の数字がよくない

ワタミの目下の課題は何としても2016/3期黒字化する、です。

 所が2016/3期の第1四半期(1Q)、早速状況がよくありません。

全体-売上高34,516百万円-経常利益▲1,245百万円
国内外食-売上高11,303百万円-セグメント利益▲503百万円
介護事業-売上高9,127百万円-セグメント利益▲134百万円

 前期の1Qは全体で売上高34,516百万円、経常利益▲435百万円。1Qの数字だけ見れば、傷がふさがるどころか傷が広がっています。
 特に、介護事業が赤字になったのは辛い。(前期1Qセグメント利益721百万円)

 ワタミ、今季最初の四半期からジリジリと追い詰められつつあります。
 

客観的には介護事業か宅配事業を売るしかないのでは?

 1Qから苦戦を強いられるワタミ、期末の財務制限条項の抵触回避には、介護事業か宅配事業を売るしかないのでは?

 絶対黒字化する、と言いながらも、それが出来ない場合の次善の策は当然用意をしておくべきで、そう考えると売れるモノは介護事業か宅配事業。両事業ともに、前期までは黒字で推移しており、また特に介護事業は看板架け替えればすぐに事業もスタートできるので、買いたいと思う会社も多いハズで、結構な値段も付けられそうです。

 外食事業の立て直しが見えてこない中、介護事業が赤字転落となると、2016/3期の黒字化は正直厳しいと思わざるを得ません。

 2016/3期末の黒字化、そして財務制限条項の抵触回避には、介護事業の売却→売却益の計上→通期での黒字化、というのはベストではなくともベターな策ではあります。

ワタミは介護事業の売却を交渉、相手は損保ジャパンとパナソニック

 やはりワタミは介護事業の売却を既に交渉しているようです。

居酒屋大手のワタミはグループで運営する介護事業を売却する。損保ジャパン日本興亜ホールディングス、パナソニックと交渉を進めている。売却額は200億円程度とみられる。(日本経済新聞2015/9/10)

 やはり・・・、という記事ですね。パナソニックは介護事業を本腰入れて展開する予定なので、まさにピッタリの買収先となります。

 ワタミとすれば介護事業が200億円で売れるのであれば、事ここに至っては売却やむなしでは。
 200億円で売れれば、財務制限条項付の融資53億円をそのまま返しても、約150億円が手元に残ります。150億円の現金が新たにワタミに入ってこれば、本業の居酒屋立て直しの資金及び時間的余裕が十分生まれますので。

 介護事業の数字資料は外部からはうかがえませんが、売却金額150億円くらいかな(介護事業の償却前利益30億円として、その約5倍)と推定していたので、200億円は意外に高い感を受けます。ただ7倍とすれば200億円なので、こんな感じと言えなくも無し。

 勝手な推測なので、200億円が高いか安いかは何とも言えない部分もありますが、ワタミは介護事業を安売りする訳ではない、とは言えそうです。

ワタミは居酒屋をどうするか、という問題に最後は帰結

 ただね、仮に介護事業を売却して2016/3期をしのいだとしても、ワタミという会社自体は続く訳で、結局は居酒屋事業をどうするよ、という問題に帰結します。

 居酒屋事業の赤字が止まらないと、仮に介護事業を売却して凌いでも、2~3年後に本当にワタミは追い込まれてしまいます。2015/3期末時点でワタミの自己資本比率7.4%。余裕はありません。
 外食事業はいずこも厳しい状況ではありますが、本業が居酒屋のワタミ、そこから逃げる訳には行きませんので。

 まぁ、最後の方法としては、会社自体を身売りしてしまう、という手段もありますが・・・。

まとめ

 個人的にかつて結構利用していた和民が、こんな状況になっていたとは全くの驚き。
 チェーン店系居酒屋はいずこも経営は苦労していますが、それでも赤字継続の和民は苦戦の度合いが突出しています。

 そして黒字を維持していた介護事業で、1Qとは言え赤字転落。更には財務制限条項の存在(更に猶予してもらっている)。徐々に追い詰められつつあるワタミは、当期本当に正念場を迎えています。
 ワタミは3月決算。もう9月で既に上期も締めが見えつつある状態、上期はどんな数字が出てくるのでしょうか?

 今季中に何としても黒字化を達成せねばならないワタミ、今後劇的に業績は回復するのか?それとも介護事業を売却してとりあえず一息つくのか?それとも他の手段を取るのか?
 →最終的に損保ジャパンに介護事業を210億円で売却する、とワタミは決断しました(2015/10/2発表)
「当社及び連結子会社の合併並びにワタミの介護株式会社の株式譲渡に関するお知らせ 」

 正念場を迎えているワタミ。今度機会を見つけて、久しぶりに飲みに行って多少はワタミの応援をしようと思います。

PS ワタミの株主優待利回り10%超えてます。ただし飲むだけなら、ヤフオクや金券ショップで買った方が得なんだよなぁ
「ワタミの株主優待利回りは10%以上、ただし金券ショップやヤフオクがお得」

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