1800億円の自己資本でKYBは倒産の可能性は低い、ただし損失総額自体の面も

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油圧機器メーカーのKYBで、国の基準に達しない免震装置の出荷が発覚。約1,000件の物件に基準に達していない免震装置が設置されている、と報じられています。

KYBは無償交換に応じると発表していますが、実際に同社は無償交換に応じるだけの体力はあるのでしょうか?

実はKYBは強固な財務体質を誇る会社です。最終的な損失額の確定が分からない段階では何とも言えませんが、自己資本約1,800億円は伊達ではありません。

不祥事を起こしたKYB、今後の状況の推移に注目するとともに、同社の財務状況について調べてみました。

KYBの免震装置で大規模な不祥事が発生

油圧機器メーカーのKYB<7242>で、国の認定基準に達していない免震装置の出荷が発覚。KYBは国内の免震装置でシェアナンバーワンであり、非常に多くの建物で国の基準に達していない免震装置の使用が疑われています。

10月19日に第一弾としてKYBは、国や自治体の建物70件について国の認定基準に達していない免震装置が設置されている可能性があると発表しました。

しかしながら約1,000件の物件に国の認定基準に達していない免震装置が設置されている可能性があり、10月19日に発表されたのはそのホンの一部にしか過ぎません。

高層マンション等の民間物件も含まれている可能性も高いため、今後の同社による続報が待たれます。


・当然のごとくKYBの株価は暴落中(週足、チャートはTradingView)

KYBは全ての製品を交換する方針

KYBは国の認定基準に達していない免震装置が設置された物件について、全ての製品を交換する方針を表明しています。

無償交換は当たり前として、建物の工事費用等も同社が負担することになりますが、果たして同社は不適合の免震装置を全て無償交換するほどの体力があるのでしょうか。

既にスケジュールがギリギリの東京五輪の各建物の建設が間に合うのか、という問題もありますが、交換する会社がなくなってしまっては元も子もありません。

次に同社の業績推移及び財務状況について確認してみます。

KYBの業績推移

KYBの直近3期分の業績は下記のように推移しています。

2016年3月期 売上高3,553億円、営業利益43億円、当期利益▲31億円
2017年3月期 売上高3,553億円、営業利益194億円、当期利益145億円
2018年3月期 売上高3,923億円、営業利益208億円、当期利益152億
2019年3月期(予想) 売上高4,150億円、営業利益239億円、当期純利益166億円

※当期利益は親会社の所有者に帰属する当期利益を採用
※2019年3月期予想は当初の予想数字

KYBは売上高3,500~4,000億円を誇る油圧機器メーカーです。シャベルカー等の建設機器に油圧機器が多く付いていますが、KYBが製造開発しているのがあの油圧機器です。建機メーカーや自動車関連メーカー(サスペンション等)が主なお客さん。今回不祥事を起こした免震装置は、同社の売上げの1%程度にしか過ぎない、と報じられており、同社の主力事業ではりません。

主力事業ではない事業が完全にやらかしてしまった形ですが、顧客の側にはそんな社内事情は関係ありません。ともあれKYBは油圧の会社ということで、その世界では世界で知られている会社です。実は問題の免震装置、海外にも輸出されていたようで、今回の問題、事は国内に影響が留まらない可能性があります。ちなみに同社の海外売上高の比率は54.4%(2017年度)と50%を超えており、国際化が進んでいるメーカーでもあります。

世界的な油圧機器メーカーで売上高は4,000億程度で営業利益が200億円前後出ている会社、というのが簡単なKYBのイメージとなります。

KYBの財務状況

今後国の認定基準に達していない免震装置の交換費用で多額の出費が迫られるKYBですが、現状でどの程度の体力があるのか同社の財務状況を簡単に確認してみます。

2018年3月期は資産合計4,124億円に対し、資本合計1,866億円であり、自己資本比率45%。工場や機械といった固定資産を持つ必要のあるメーカーで自己資本比率45%というのは、非常に強固な財務基盤を持っている状態です。

今回の不祥事がなければ、財務基盤も良好な世界的な油圧メーカーです。借入金が920億円あるものの、自己資本比率が45%。そして現預金427億円とその他金融資産(非流動資産)247億円の水準で、無借金会社ではないものの、何事もなければ財務的には非常に余裕のある会社です。

2018年3月期のKYBの貸借対照表を見て分かるのは、財務的には非常に優良な企業である、という事です。

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約1,800億円までは損失の計上可能

今回の不祥事でどの程度の損失が計上されるのか、現段階では会社側も把握できていません。どの程度までKYBが損失計上に耐えられるか、と言えば、それは教科書的には1,800億円。2018年3月期の資本合計が1,866億円あるので、約1,800億円までならギリギリ自分の手で保証等ができます。ま、ギリギリ1,800億円だと財務的には厳しいので、第三者割当増資等で資本の調達は必要となりますが、それでも単独での生き残りは可能。

しかしながら損失のレベルが2,000億円を超えてくると、もう同社単独での生き残りは事実上難しくなります。1,000億円単位で東芝のように外部から資金をかき集めれば、それでも単独で生き残りは可能ではありますが。

ただし3,000億円とか4,000億円とか底が見えなくなると、そんな会社に資金を出す投資家はいないので、どこか別の会社に救済を依頼することになります。そんな事態になったら、ちょうど組織の再編を行った産業再生機構が支援をしそうな感じではあります。

KYBは、非主力事業がやらかしてしまったのですが、本業は問題なく利益が出ています。よって極端な話、免震装置の事業部門のみ切り離してしまえば、KYBは何の問題もなく存続可能です。

当然、そんなムシのいい話には現段階ではなりませんが、本業はシッカリと利益が出ているKYBは、免震装置の不正分の損失額さえ確定することができれば、手の打ちようはそれなりにある状態です。

損失額が確定しないと次の手は打てない

ホンハイの支援前のシャープと違って、KYBは本業がシッカリと利益が出ているので、免震装置の穴=損失が分かれば、企業としてはまだ生き残りは可能な状態です。

ただし10月21日の段階でどの程度の損失となるのか、全く見えていません。1,000億円までの損失に留まれば、極端な話、銀行借り入れで資金を手当てすれば何とかできてしまえる位の体力が同社にはあります。

免震装置で大穴開ける形となったKYBですが、幸いにして免震装置部門は非主力事業なので、損害額は非常に多くなるとしても、同社自体の企業体力も相当あるので、経営危機云々にまで至らない可能性もあります。

このあたりは、少なくとも大まかな全体の損失額が見えてこないと、何とも言えません。

ただし財務状況から見れば、KYBはメーカーとしては財務状況が良好な会社です。今後損失額がどの程度に膨らむかは分かりませんが、先人が積み上げた利益による自己資本の充実によって、同社は恵まれた状況にあります。

堅実にやってきた日本のメーカーの1つの典型的な財務状況、と言えるのではないでしょうか。

2018年9月中間期は約100億円の赤字の様子

11月5日の日経新聞は、KYBの2018年9月中間期は最終損益が約100億円の赤字になる見込み、と報じています。中間決算発表と同時に、通期の下方修正がなされる可能性も高いです。

ただし中間期時点でも、免震装置の交換や減損でいくらの損失となるのか合理的な計算ができな様子。本問題、長期化する見込みです。

まとめ

神戸製鋼や川崎重工、スバルに日産など、日本のメーカーの不祥事が続いています。モノ作り大国日本なんて、正直幻想だった可能性も正直あるのではないかと。

KYBの問題は東京五輪の問題も絡んでくるので、今後大きくクローズアップされる可能性もあります。

現段階ではKYB自体が不祥事の全体像を把握できていない状態ですが、それは今後徐々に全体像が明らかになると考えられます。果たしてKYBの免震装置の不祥事は、最終的にどのような形で着地することになるのか。

もうギリギリの日程で進んでいる五輪関連の建築物の行方はじめ、損失額が最終的にどの程度となるのか、今後のKYB不祥事の行方に注目したいと思います。


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