アメリカで発覚したフォルクスワーゲン(VW)のディーゼルエンジンの排ガス不正問題。アメリカやVWの本国ドイツだけでなく、世界中で騒動になっています。
今回の不正発覚を受けVWの株価も当然急落。ドイツ経済に大きな影響力を持っているVW、目下難民問題で悩ましい状態の続いているドイツ政府にとって、更に頭の痛い問題に。
VWの排ガス不正問題、ディーゼルエンジンの仕組み等テーマが多岐に渡り過ぎていますが、株価や経緯等、一連の問題の整理をしてみました。新しい情報が入り次第、随時記事はアップしています。(2015年11月5日追記)
概要
そもそもVWの排ガス不正問題とは?
一言でVWのディーゼルエンジンの排ガス不正問題、と言ってしまっていますが、実際どんな問題だったのか、おさらい。
VWと傘下のアウディが2008年以降に販売したディーゼルエンジン搭載の5車種で、排ガスの基準をクリアするために、検査中だけ排ガスを低減する不正ソフトを搭載していた問題。~不正ソフトは一定時間ハンドル動作が行われない場合などに排ガスの試験をしていると判断、私見の時だけエンジンを制御して排ガスの発生を少なくし、エンジンが基準に適合しているように見せかけていた。(日本経済新聞2015/9/26)
当初アメリカで問題が発覚し、ヨーロッパでも不正が認められ、リコールの対象は1,100万台と言われています。後述しますが、アメリカではディーゼル車の普及率は1%程度であり、リコールの対象はディーゼル車率が50%を超えている、ヨーロッパが中心となりそうです。
VWの排ガス不正問題の経緯、時系列に並べてみた
アメリカでの問題の発覚以降、次から次に新しい事実が発覚しているVWのディーゼルエンジンの不正問題、これまで報じられてる内容を時系列に並べてみます。
2007年 ボッシュがソフトは内部のテスト用で規制対策に用いるのは違法と文書で警告
2011年 社内の技術者が同ソフトの違法性を指摘
2013年 EUがVWの排ガス不正ソフトの問題を把握?
2014年5月 米ウェストバージニア大が路上テストで基準値の最大35倍の窒素酸化物を検出と発表、EPA(米環境保護局)が調査を開始
2015年8月 スズキとVWの提携解消
2015年9月 VWが不正を認める
2015年11月 EPAが新たにポルシェとアウディの排ガス不正を発表
不正ソフトを開発したのは、VWではなく自動車部品の世界的大手のボッシュ、だったようです。そのボッシュはご丁寧に、あくまでも内部の試験用だから規制対策に使っちゃダメよ、とわざわざ文書で警告しています。
しかしながらVWはその警告を無視して、不正ソフトを規制対策で活用。2011年に、これはさすがにまずいんでないかい、と社内の技術者から警告もあったようですが、これも黙殺。
2013年にはEUもVWの不正ソフトを感づいていたようですが、規制当局も問題をスルー。環境規制や独禁法の問題で、他所の国の企業には強く当たることの多いEUですが、身内には甘いのね~、と思われてしまうのは仕方ないですね。
ウェストバージニア大の路上テストはVWの「パサート」、「ジェッタ」、BMWの「X5」の3車種で行われた結果、「X5」は規制値をクリア、VWの2車種は全く規制値がクリアできず。今回の排ガス不正問題、ことの発端から見れば、BMWは見事に試験をパスしています。
しかし時系列に追っていくと、フェアをポリシーにしているアメリカがズルしたVWをしょっぴいたのは、必然かもしれません。2008年から不正を働いていたとして、足掛け7年。引き返す機会は何度もあったのでしょうけど。
そして最後にEPAはVWに対して、2016年の新型車を認証しない、とまで言い切った結果、VWは不正を認めた、という経緯のようです。
ちなみに2015年8月にスズキとVWは提携解消を発表。VWは、スズキと争っている場合ではない・・・、と8月の時点で考えていた可能性もあります。
VWの株価推移
では、これまでのVWの株価の推移を見てみます。
VW株価の月足チャート
チャートは「GCI Financial」より(以下同様)
2008年にビヨーンと株価がヒゲをつけて跳ね上がっていますが、これはチャートのミスではありません。後述しますが、ポルシェがVWに仕掛けたM&Aの残照となります。
今回の不正発覚を受けて、週足チャートではVW株価は窓を空けて下落。しかしながら9月25日終値は115ポイントであり、最安値の61ポイント付近までは、まだ余裕がある状態です。
世界的に株価が軟調なのが理由なのか、株式市場は今回の件を事前に知っていたのか、どちらかは分かりませんが、VWの排ガス不正発覚前からVW株価は下落トレンド。そして不正発覚で窓を空けて下落。このチャート形状では、なかなかロング=買いで入るのは難しいですね。
いずれにしても、不正発覚でVW株価は急落。しかしながら最安値まで下がった訳ではなく、今後の展開次第ではまだまだ株価の下落余地は大きいチャートパターンになっている、と考えられます。
VWの株主、ポルシェ一族が筆頭株主
VWは上場会社です。そしてそのVWの株主は下記のようになっています。
・ポルシェオートモービル(持ち株会社)50.76%
・ニーダーザクセン州20%
・カタール政府17%
・一般株主12%
VWはVW創業者のポルシェ一族が保有する持ち株会社が50%以上の株式シェアを保有する会社。日本のトヨタ自動車は豊田家が約2%の株主、と言われますが、大違いです。
今回不正が発覚により退任を発表した、VWの最高実力者でフェルディナント・ピエヒ監査役会長は、ポルシェ一族のご出身です。
ポルシェがVWを買収しようとするも失敗、逆にVWがポルシェを買収
VWとポルシェは第二次世界大戦前にドイツで国民車を開発したポルシェ博士の一族が経営。
ポルシェはポルシャ博士の長男が経営、一方のVWはポルシャ博士の娘さんの旦那さんが経営、というのがそもそもの始まり。そして2012年8月にVWがポルシェを完全子会社化し、ポルシェはVWの傘下に入っています。
しかしこの子会社劇、結構なドラマがあり、歴史を紐解くと金融やM&Aの勉強の絶好の素材になったりします。
簡単にまとめると、ポルシェが当時規模で10倍以上のVWの買収、小が大を飲むという買収を仕掛け、VWの株を買い締めを開始したものの、2008年のリーマンショックを契機とした経済危機によりポルシェの経営は悪化。最終的にはポルシェが資金繰りにも窮するようになり、最後にVWがポルシェを救済する形で完全子会社化。
これによりポルシェはVWの完全子会社となり、そして現在に至っています。
VWグループ、VWの保有ブランド一覧
一度経営破たんを経験しているアメリカのGMも非常に多くの自動車ブランドを保有していましたが、VWも負けてはいません。VWは計12のブランドを保有しています。
・VW(乗用車)
・VW(商用車)
・セアト(大衆車)
・シュコダ(大衆車)
・ポルシェ(高級車)
・アウディ(高級車)
・ランボルギーニ(高級車)
・ベントレー(高級車)
・ブガッティ(高級車)
・MAN(トラック)
・スカニア(トラック)
・ドゥカティ(二輪車)
まさに自動車帝国、とも言えるブランド数ですね、これは。
VWの地域別シェア
実はアメリカでは数%のシェアしかないVW。地域別シェアは下記のようになっています。(2012年)
・ヨーロッパ-23%
・ロシア-11%
・アフリカ-17%
・日本-2%
・中国-14%
・アジア-3%
・北米-4%
・中南米-18%
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VWは中国で高いシェアを誇り、中国の経済成長とともにVWが成長してきた話は有名ですが、実は中南米、特にブラジルでも高いシェアを誇ります。けど地域別シェアを見ると、今回の一件、シェア数%しかない北米=アメリカで足元をすくわれる構図となっています。
ディーゼル車全体に対するVW不正事件の影響
今回のVWの排ガス不正問題、ディーゼル車に対する影響は大きいと言わざるを得ません。
確かに新車の販売台数の50%以上がディーゼル車と言われており、尚且つVWのお膝元のヨーロッパはその影響の大きさは計り知れません。では、他の地域はどうかと言えば・・・。
日本はディーゼル車の販売台数の割合は1~2%。今後、マツダがディーゼルエンジンに賭けている部分はありますが、日本ではディーゼル車は殆ど普及していない状況。
ちなみに日本の自動車メーカーで海外からディーゼルエンジンを調達しているのは、トヨタと日産とスズキの3社。トヨタはBMWから、日産がダイムラーとルノーから、スズキはフィアットからディーゼルエンジンを調達しています。
ただし日本にもディーゼルエンジンの部品等を提供している会社が存在しています。下記記事で、日本のディーゼルエンジン関連銘柄をピックアップしてみました。
アメリカはガソリン自動車の国でディーゼル車の販売割合は約1%と言われており、こちらも日本同様殆どディーゼル車は普及していません。
中国はどうかと言えば、詳しいデータはありませんが、中国でディーゼル車が普及しているという話も殆ど聞かれないので、それほど影響はなさそうです(恐らく)。ただし中国はVWの金城湯地、今回の件でVWのブランドイメージ低下は避けがたく、今後中国市場でVWがどうなって行くのかは、VWの経営を大きく左右しそうです。
VWの排ガス不正問題、問題の影響を最も受けるのはヨーロッパ、その他の地域は目先はそれほど影響はなさそうです。(将来的な問題は別として)
日本及びアメリカでは殆どディーゼルエンジン車は普及していません
排ガス不正問題はポルシェ、アウディにも波及か?
排ガス不正の問題、VWの抱える高級ブランドのポルシェ及びアウディは不正無し、とされていましたが、EPAはポルシェ及びアウディでも不正が見つかったと発表しています(2015年11月2日)。
新たに不正が発覚とEPAが発表したのは下記車種。
・VW→トゥアレグ(2014年モデル)
・ポルシェ→カイエン(2015年モデル)
・アウディ→A6クワトロ、A7クワトロ、A8、A8L、Q5(2016年モデル)
「EAPのプレスリリース」
これまではVWの排ガス不正問題は2リットル車のモデルに留まっていましたが、今回新たに3リットル車も追加された形となっています。
そして今回のEPA発表に対し、VW側はEPAの主張を真っ向から否定。
真偽の程は今後明らかになるでしょうが、アウディだけでなくポルシェも不正の疑いの目で見られてしまう事態。VWにとって排ガス不正問題、まだこの先どんな展開となるか全く予断を許せない状態となっています。
VWの排ガス不正問題、ガソリンエンジンにも拡大
当初ディーゼルエンジンから火が付いたVWの排ガス不正問題。VWだけでなくアウディ、ポルシェといった高級車部門にも影響が波及する中、遂にガソリンエンジンにも影響が拡大。
『VW排ガス不正、ガソリン車にも拡大 CO2排出量に「不整合性」』
尚、新たに約80万台で二酸化炭素の排出量データの不正行為を発表したVWですが、日経新聞(2015/11/5)によると、ドイツ政府がそのうちで9.8万台がガソリン車だと明らかにした、と報じています。
排ガス不正の問題、これまでは窒素酸化物(NOx)の問題でしたが、次のステージはCO2となる可能性も。ヨーロッパが旗を振って、CO2削減に努力している訳ですが、足元でVWの車がCO2を巻き散らかしていた、ということになるとEU始めヨーロッパ諸国の面子丸つぶれ、ということになります。
ことがガソリンエンジンまで延焼すると、ことVW不正というVW1社の問題だけでなく、CO2削減と言う壮大なテーマにまで影響を与える可能性があります。
そして自動車エンジンの大本命は未だガソリンエンジン。VWの排ガス不正問題、このガソリンエンジンにまで延焼すると。その影響は計り知れないものとなります。VWの排ガス不正問題、ガソリンエンジンを巻き込み、新しい段階に進む可能性も出てきました。
まとめ
VWの排ガス不正問題、経緯を追っていくと、実は問題は数年以上前から把握されていて、引き返す機会が何度もあった、ということが分かります。またEUも問題を把握していたようですし、アメリカの大学が論文を発表したもの1年前。よって、急に打ち上げ花火がドカーンと上がった、という訳ではないようです。
EUも身内には甘いのね~、というのが印象的ですが、フェアを旨とするアメリカでは、ズルは全く許されない行為。社内でもアラームは鳴っていたようですが、それを無視したツケは随分と高くつくことになりそうです。
前回の記事「フォルクスワーゲンの排ガス不正、マツダとトヨタが困りスズキが冷や汗」が意外にも好評のようで、続編と言いますか、VW排ガス不正問題のまとめ的に当記事を作成しました。
今後も進展があれば、随時記事を更新しようと思います。
VWの排ガス不正問題、ヨーロッパ+不正が最初に発覚したアメリカ中心に、まだ今後の展開から目を離すことができません。今後も注目していこうと思います。
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