カレーライス屋の「カレーハウスCoCO壱番屋」を運営する壱番屋(東証1部7630)が、ハウス食品グループ本社(東証1部2810)のTOB(公開買い付け)により買収されハウスの子会社化となることに。
10月30日(金)に発表された驚きの発表。そーか、ココイチはハウスの子会社になってしまうのか。既に中国進出を共同で行い、資本的にはハウスの持ち分法適応会社となっていた壱番屋。ある意味、ありうべき帰結ではあります。
そしてハウスの壱番屋のTOB価格(株価)は6,000円。ハウスは大盤振る舞い、とまでは言えないまでも、結構高めの株価で壱番屋のTOBを行うことで腹を括ったようです。(2015年12月3日更新)
概要
ハウス食品がココイチ(壱番屋)の株をTOBで51.0%買い集め子会社化
ハイ、もう管理人には驚きの一報となりました。
「ハウス食品グループ本社株式会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ」(壱番屋のIR)
えー管理人、相当ココイチにはお世話になっております。アホみたいにココイチのカレーは5辛、と言っていた時期もありますし、飲んで帰らない金曜の夜は必ずココイチで野菜カレー大盛+サラダ、と決めていた時期もあります。今も機会があればタマにココイチに参ります。若干ココイチの味と違う、と思いながら冬はココイチ監修のカレー鍋を何度も食しております。
そう、そんなココイチがハウスの子会社に。いや別に悪い話じゃないんですが、これも時代の流れだよなぁ。ココイチはオーナー夫婦が結構有名人(ココイチの店に経営哲学の本、昔売ってました)ですが、もうオーナーも67歳、会社売るか後進に道を譲るか、との判断の中で既に共同で事業を行っており、気心しれたハウスに会社を売る、という判断をされたのでしょう。
ちなみに壱番屋、本社は愛知県一宮市という所にあります。実は名古屋の会社じゃないんです、意外に知られていませんが。
ハウスによる壱番屋のTOBのポイント
ザッと壱番屋とハウスのIRを見て、ポイントとなりそうな部分をピックアップしてみました。
- ハウスはTOBで壱番屋の株を51.0%まで買い取り子会社化するが壱番屋の上場は維持
- 株価の6,000円は結構いい値段、ハウスが頑張った感あり
- オーナーは全株を放出
- 今後の経営体制については未定としている
- 三菱UFJグループはやってしまった?
では、順番に詳しく見て行きます。
①ハウスはTOBで壱番屋の株を51.0%まで買い取り子会社化するが壱番屋の上場は維持
今回ハウスはTOBで壱番屋の株を株式市場から買い上げて子会社化する訳ですが、その買い上げる比率は51.0%。既にハウスは壱番屋の19.55%の株を保有して持ち分対象としており、今回新たに追加取得するのは31.45%。
そして、今回の追加取得の合計金額は約300億円。
買付け期間は11月2日(金)~12月1日(火)までの20営業日。
ただし今回TOB後も49.0%の外部株主は残るため、東証1部への上場は維持。今回、TOBで株を売らないと判断される方でも、TOB以降も壱番屋の上場は維持されるので、今後も自由に株の売買は可能となります。
②株価6,000円は結構いい値段、ハウスが頑張った感あり
で結局この買い付け価格の6,000円はどうなのよ?、ということがTOBでは問題となりますが、管理人が見たところ、結構いい値段。ハウスも頑張ったのね、という感じ。
まずは買われる側と買う側の両社のアドバイザーが出した株価をご覧ください。
買われる側が株価を高く出して、買う側が株価を安く出すのは当たり前ですね。3種類で株価を出して、その上で今回6,000円という価格を出しています。そしてこの6,000円、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法のレンジに入っている株価。
DCF法とは何ぞや?企業の将来キャッシュフローを現在価値に引き直して・・・、と説明もできますが、要は会社の事業計画をもとに株価を算出した数字。正直鉛筆ナメナメの世界が入ります。まぁこの鉛筆の舐め方が証券会社の腕の見せどころではありますが。
DCF法だけで見ても、今一つピンとこないので、10月30日(金)の壱番屋の終値5,370円を見てみます。
すると、6,000円という株価はTOB発表日の壱番屋の終値5,370円に11.7%のプレミアを付けた株価。
そして株価5,370円の場合、予想PER30.5倍、PBR3.2倍。
<関連記事>
伝統的な株式指標であるPERとPBRで見れば、壱番屋は既にもう十分割高な壱番屋。ハウスはさらにその株価にプレミアを付けてTOBすることとなります。DCF法で見ればもう少し上も狙えますが、DCF法ではじいた下限株価の約5,600円から400円上回っているので、文句は付けられない株価となっています。
総合的に考えれば、ハウスは頑張って壱番屋に高めの株価を付けた、と考えますが、どんなもんでしょか。
壱番屋の株価は2015年は高原状態、6,000円のTOB価格は未知のゾーン
③オーナーは全株を放出
今回のTOBに際し、オーナー夫婦及びその資産会社は全株の売却を表明しています。よって現オーナー夫婦は完全に壱番屋の株主から名前が消える予定。TOBで株が集まり過ぎた場合、買い付けされる株は比例配分されるため、最終的にオーナー夫婦の株は若干残る可能性もありますが。
ただし、それはもうテクニカルなお話なので、現ココイチのオーナーはオーナーの座からは引退、ということになります。
④今後の経営体制については未定としている
②にかかわることですが、オーナーが全株TOBに応募する訳ですが、じゃぁ今後社長や経営陣はどうするよ、というお話は、現段階では決定している事実は無い、とのこと。
それでいいのか?、と思わないでもないですが、ココイチはFC店が多いので(約5~6割)、オーナーが、じゃぁバイバイ、とスグ立ち去る訳には行かない会社。FCの運営会社が変わるって、実は結構面倒な話なので、歯切れの悪いIRはその辺りに事情がありそうな。
けど現段階で未定、と言われても最終的にはハウスから社長を派遣して・・・、という流れになりそうな感はします。
⑤三菱UFJグループはやってしまった?
これは金融機関ネタ。今回、壱番屋のアドバイザーはSMBC日興証券。一方、ハウスのアドバイザーは野村証券。ハウスの主幹事は野村証券、そんな訳でこれは普通。で、壱番屋。壱番屋の主幹事は野村証券、ただし野村はハウスでもアドバイザーしているので、これは無理。じゃぁ誰がアドバイザーするのか?、となった時、東海地方では圧倒的強さを誇る旧東海銀行=現三菱UFJ、となり、普通に行けばアドバイザーは三菱UFJモルガンスタンレー証券、となりますが、今回壱番屋のアドバイザーはSMBC日興証券。
ハウスのメインバンクは三井住友銀行ですが、壱番屋は三井住友銀行がそれ程親しい訳ではなさそう。単に三菱UFJモルスタがお高く留まってスルーしたのか、やってしまったのか、SMBC日興に負けたのか、事情は分かりませんが、東海地区の案件に旧東海銀行勢の姿が無いのは非常に珍しいケースとなります。
ハウス食品にとっても一大決心のTOBによる買収
実はハウス食品って、とってもキャッシュリッチ=お金持ち会社として有名。2015/3期時点で現預金等438億円持っていて、借金は75億円、差し引き363億円の無借金会社。更に驚くことなかれ、投資有価証券800億円を保有しており、簡単に行って1,000億円以上自由にできるお金を持っている状況。スッゲー。
ただしこれだけお金や有価証券を溜めこんできたということは、逆に言えばそれだけ慎重に経営を行ってきたという裏返しな訳で、今回の約300億円を突っ込んで壱番屋を子会社化にする計画のハウス、これまで大事にしまってあった蔵の鍵を開け壱番屋をTOBで買収することになるので、ハウスにとっては一大決心となります。
ただ300億円クラスであれば、もう2社M&Aできる計算が成り立ってしまうのが、ハウスのスンゴイ所ではありますが。
まとめ
ハウスと言えばカレールーも有名で管理人はカレーのルゥと言えば「ジャワカレーの辛口」が一番好きだったりします。しかしながら、管理人にとってココイチのカレーは全く別格。ハウスの子会社となった後も、あのココイチらしいカレーの味が変わらないことを願うのみです。
実はココイチのカレー屋は管理人が学生の頃バイト界隈では、結構厳しい店として有名でした。今振り返れば、FC店だからそりゃそーだよなぁ、と思いますが、ココイチが日本の外食カレー市場で圧倒的地位を築いたのは、カレーの味は当然としてFCとして抜群のオペレーション力があったのも事実。味はレシピで何とかなりそうですが、食品会社のハウスが壱番屋のFCオーナーのハートをガッチリつかんで店舗運営していけるか、ここはハウスの鼎の軽重が問われそうです。
ハウスの壱番屋へのTOBは11月2日(月)開始。恐らく11月2日(月)の壱番屋の株価はTOB価格6,000円付近で寄り付きそうです。ハウスの一大決心、うまくいくことを願っております。
後日談、無事にTOB成立
ハウスによる壱番屋のTOBは12月1日(月)に無事成立。
ちなみにハウスは一番屋の買収に伴い”のれん代”が361億円発生。のれん代は5年で償却の計画という日本基準で、今期の償却負担は18億円。
ココイチファンとしては、ハウスの子会社化の後も、あの味が変わらないことを願っています。
<関連記事>
「PERの意味を考えてみようじゃないか、予想PER使ってますか?」
「PBRの意味とは?低PBR銘柄って放置プレイ銘柄の可能性も」