脱毛エステのミュゼ、ここ数年で急拡大した会社で、JRに乗ると中吊りの広告をよく見ます。以前はTVCMも結構流れていました。
そんなミュゼが倒産の危機?ミュゼの危機を報じた記事を読むと、英会話のNOVAと似たような構図のようです。
概要
ミュゼプラチナムが経営破綻?
JRの中吊りやTVCM等、そしてオーナーが競馬の馬主としても有名なミュゼプラチナム(以下、ミュゼ)。ここ数年で急に名前を聞くようになり、エステ業界ってやはりもうかるのね・・・、と外野からは素直に思っていましたが、実際はそんなことはないようです。
『「脱毛エステ最大手」ついに「経営破たん」:刑事事件に発展も – 内木場重人』(フォーサイト)
ちなみにリンク先はBLOGOSですが、記事の掲載は「フォーサイト」。「フォーサイト」は硬派な経済政治誌で、数年前まで紙媒体の時は定期購読してましたが、雑誌が無くなってから読んでませんでしたが、webで「フォーサイト」続いていたんですね。
一番の注目点は下記。
、融資銀行団の判断如何では、240万人という業界最大規模の会員らに前受金が返金されない事態になりかねず、社会問題化が懸念される。
エステや語学学校が儲かるカラクリは前受金にありますが、やはり今回も前受金がポイントのようです。
前受金を売上に計上の様子
外部からはミュゼの決算は分かりませんが、ミュゼは「フォーサイト」の記事によると、会計操作というより粉飾決算を行っている様子。(ただし東芝問題が不適切会計なら、こちらも不適切会計)
内容としては、顧客からの前受金を売上に計上している、というもの。エステや語学学校はサービスが一回ポッキリでは終わらないので、会社側は顧客に対して例えば10回分のサービスチケットを買ってもらいます。
このサービスチケットを顧客が購入した場合、1枚1万円とすれば10枚で10万円が顧客から会社に支払われます。
ただし、会社が売上を計上できるのは、チケットを販売した時点ではゼロ。売上は、サービスやモノを提供した際に初めて計上できるため、このためお客さんがエステのサービスを受けてチケットを会社がお客さんから受け取った時に、初めて売上計上が可能になります。
ではサービス提供前のチケット分のお金はどうするかと言えば、会社としては会計上は前受金(先払いのお金)として貸借対照表(B/S)に計上すべきもの。単にお客さんのお金を預かっています、とも言うべき内容です。
このチケット制の仕組み、最初にお客さんからサービス提供会社に大きなお金が動く所がミソ。
一番最初の来店の際、その都度の支払いであれば1万円の入金にしかならない所が、チケットの枚数分、会社には入金があります。
会社側としては確かに目先のキャッシュフローは潤沢になりますが、そのお金はあくまでも、お客さんから預かっている、という扱い。本来的には会社のお金ではありません。
そんな性質のお金なので、理想を言えば、会社の通常の口座とは別口座で管理してもいいくらいのお金です。ただし、とは言っても一旦会社には入金されている、というのは事実です。
前受金の売上計上は会計的にNG
受け取った前受金を全額売上に計上すれば、上記の例で言えば、本来1万円しか売上計上できないのですが、10万円の売上が計上されます。またサービス提供前で、サービス提供のコストもかかっていないため、トンデモナイ利益率になります。まぁ、チケット購入日に10枚つづりのチケットの1枚しか使いませんでした、と言うことであれば、その売上は殆ど架空の売上、と言うことになってしまいます。
そんな訳で、前受金の売上計上、会計的にはNGです。上場会社だとまず監査法人が認めませんし、未上場の会社であればまず上場(IPO)不可能です、サービスや物の対価としてお金をもらって売上を計上する、という商売の原点を考えれば、当たり前ですね。
前受金に手を付けると自転車操業に
仮に前受金を売上に計上していたとしても、お金を銀行の別口座に移す等でそのままにしておけば、会計的な問題はあるにせよ、最終的には帳尻があいます。しかし残念ながら、人間も会社もお金を持っていると使ってしまうんですね、コレが。
こうなるともう自転車操業への道をまっしぐら。前受金を売上に計上する前提での売上+資金計画になっていき、チケットの回収が進めば進む程(最初に全チケット分の売上を計上するため、残りは費用のみの計上になります)、費用が嵩み、そしていつか最後の時を迎えることに。
繰り返しますが、顧客からチケット代として預かった前受金をそのままにしておけば、会計処理の問題はさておいても、最後に帳尻はあいます。
問題は、前受金を売上計上した会社が、前受金に手を付けて自転車操業に陥ってしまう点にあります。
極端な話、未上場で上場する予定もない会社であれば、前受金を売上に計上していても、ちゃんと事業としてまわっていて、利益の分だけ税金を支払っていれば、何ら問題ありません。ちなみに税金のことを考えると、前受金の売上計上は、先に多く税金を支払う必要が出てくるので、とてもじゃないですがオススメできる会計処理ではありません。(先に税金支払って、後で赤字になっても、支払った税金は帰ってきませんので)
ミュゼは会計監査が必要ない会社と推察されます
ミュゼプラチナムを運営する、株式会社ジンコーポレーションは資本金8005万円の会社。
会社法では、資本金5億円以上もしくは負債の部に計上した額の合計額が200億円以上の会社を大会社として定義し、大会社には監査法人の監査を義務付けています。(会社法328条)
ミュゼを運営する株式会社ジンコーポレーションは資本金8005万円の会社で、前受金を売上計上する会計処理を行う状態だったということは、負債の額も200億円以下で、監査法人はミュゼの決算には関与していない可能性が高いです。
英会話のNOVAの破綻も前受金が背景
前受金を売上に計上して、前受金を事業資金に使ったり、前受金を使い込んでしまった等、前受金に関するお話は実はタマーに出てきます。記憶に新しいのは、英会話のNOVAのケース。
NOVAもチケット制で英会話サービスを提供していましたが、前受金に手を付けて、自転車操業になり、最終的に首が回らなくなったパターンとなります。NOVAも一時、TV-CMが凄かったのですが、殆ど前受金のお金から宣伝広告費が出ていたのだろうと考えられます、
企業経営者としては、大きいお金が先に入ってくるチケット制って、とっても魅力的な制度=ビジネスモデル、なんです。けどね、先にも書きましたがお金があると使ってしまうんだな、コレが。
現金はあるのに使えない=蛇の生殺し状態に耐えられなくなってしまうのでしょうか?それとも、我が身と一緒で財布に大きなお金が入っていると、後で支払わなければいけないお金、と分かっちゃいても、気分が大きくなってしまうのだろうか?
ミュゼのオーナーは競馬の馬主として有名
ミュゼのオーナーは競馬の馬主としても有名です。ミュゼスルタン等、ミュゼという名前の付く馬、今年のGⅠレースでも既に何頭か見ています。ミュゼってそんなに儲かっているのか、と思っていた理由の一つ。
しかしこのミュゼ〇〇〇という馬たち、少なくとも今年のGⅠレースでは勝っていません。ということで、記事にもあるように、競馬事業は採算的にはマイナスではないかと。
当然、馬関係はミュゼの法人としてではなく、オーナーが個人の事業として行っていると思いますが・・・。
銀行はミュゼの状態を見抜けなかったって本当か?
記事によると、ミュゼのメインバンクは茨城の第一地銀の常陽銀行。他にも、足利銀行、三菱東京UFJ銀行、東邦銀行、七十七銀行と取引がある様子。3月に13億円のシンジゲートローンを提供していて、今になって慌てているようですが、銀行は見抜けなかったのでしょうか?
3期分の損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)を持ってきて、エクセルをチョチョイと操作すれば、キャッシュフロー計算書(C/F)の出来上がり。キャッシュフロー計算書を見れば、一発で前受金の状況は分かりそうなものですが・・・。
銀行側も仮に預り金を売上計上が分かっていたとしても、キャッシュフロー計算書作って、貸借対照表と損益計算書を突き合せれば、最後の時のタイミングも分かりそうなものですが。(ちなみに月次試算表があれば、年次同様、月次のキャッシュフロー計算書が作成できます)
シンジゲートローンなので、ついて行った方の銀行は、幹事行にやられた、という状態ですが、幹事行は本当に見抜いていなかったのか?ここの辺り、結構銀行同士の関係が揉めそうな気がします。
まとめ
ミュゼに限らず、多額の前受金を抱えたまま会社が破綻すると、社会問題化します。そりゃそうですよ、顧客からすれば既にお金を払っていて、受けれられるハズのサービスが受けられなくなるのですから。
ミュゼは未上場の会社なので、株式市場には全く影響はありませんが、前受金を売上計上という、会計的にはタマに問題となるテーマであり、管理人の会計好き(?)も相まって、取り上げてみました。
管理人は基本的にチャート屋ですが、意外に会計の話も好きだったりするので、今回は株とか株価とか離れて会計の話が中心となりました。また機会があれば、会計ネタも取り上げようと思います。
PS 会計ネタ第2段に「ワタミ」を取り上げてみました。ワタミは今期(2016/3期)が正念場です。
「ワタミに倒産の足音、介護事業売却か居酒屋の復活か?」