セーラー万年筆(東証2部7992)で、代表取締役社長の中島義雄氏が社長解任。その解任の無効を争う法廷闘争へ。しかしながらセーラー万年筆の業績を見れば、法廷闘争に労力を使える余裕は全くない業績。
日本初の万年筆の製造販売を始めた名門セーラー万年筆、今後どうなってしまうのか?中島前社長の法廷闘争の行方は分かりませんが、筋としては結構無理がある印象。
また中島前社長が、雇われ社長として勤めて6年。同社の業績の立て直が進んでいるとは言えず、遅かれ早かれどんな形であれ社長退任は免れなかった可能性も。
いずれにしてもそれ程業績に余裕のないセーラー万年筆。ユーザーの一人として、立ち直りに期待したいところではあります。
概要
セーラー万年筆が元大蔵官僚の中島社長を解任
元大蔵官僚の中島義雄氏、結構懐かしい名前です。大蔵省で過剰接待が問題になった際、将来の次官との呼び声の高かった中島氏が大蔵省を去ったのは1998年。過剰接待問題と言ってもピンと来なければ、ノーパンしゃぶしゃぶ事件、と言われれば、あーあれね、と何となく記憶に残っている方も多いのでは。
その中島氏、その後、京セラの稲盛会長の下で、企業再生の道に進みます。京セラが破たん後に傘下に入れた京セラ三田(現、京セラドキュメントソリューションズ)の専務を経て、船井電気副社長、そしてセーラー万年筆社長と進みます。
セーラー万年筆には2009年当時の社長に請われて入社、その12月に社長に就任しています。
セーラー万年筆の業績推移
中島前社長が就任以来の、2009年12月期以降のセーラー万年筆の業績は下記のように推移してきました。
2009年12月期以降、6期連続当期純利益ベースで赤字が継続中。当期にようやく黒字化の予定となっていますが、6期連続赤字とは驚き。これでよく潰れなかったな、というのが正直な印象。やはり万年筆、もう売れないのね・・・。そうなんです、今やセーラー万年筆の屋台骨を支えているのは、産業機械部門だったりします。
継続前提に疑義注記
セーラー万年筆には監査法人より”継続企業としての前提に疑義”が付けられています。
簡単に言うと、今後会社がそのまま続く保証はありませんよ、と監査法人が公式表明している状態。
そりゃ6期連続も赤字が続けばそうなるよね・・・、という状態となっています。
増資による資金調達で一息ついている状態
6期連続赤字で正直シンドイ状況のセーラー万年筆ですが、資金的には2014年に行った資金調達によって、一息ついている状態。まぁ、あまり評判のよろしくない株の大幅希薄化を招くライツオファリング=崖っぷち企業の資金調達も行っていますが(通常の増資+ライツオファリング)、ともあれその資金によってセーラー万年筆は生きながらえています。
上記は2012年12月期以降のセーラー万年筆のキャッシュフロー計算書ですが、ジリ貧という状況ですね。2014年12月期の資金調達で資金的には一息ついていますが、2015年9月胆営業C/Fのマイナスが継続しており今期復活したかどうかは、まだ何とも言えない状態。
同社には短期借入金が14億円存在しており、確かに昨年資金調達して何とか現預金は確保できているものの、業績の回復がなければ遅かれ早かれ借金で追い詰められる状態。
業績の回復はまさに待ったなしです。
セーラー万年筆の株価推移
セーラー万年筆のここ5年の株価推移は下記の様になっています。
ヤフーファイナンスより
あまり株価は動いていません。タマに動いていますが、仕手っぽい動きだなぁ、といったところ。
中島前社長が社長になった後も、業績・株価ともに見るべき成果は上げることが出来ていない、と言うのが客観的な意見となります。
中島前社長が解任に至る経緯
中島前社長が解任に至った経緯は下記のように報じられています。
『内紛 前社長が「解任無効」主張』(毎日新聞2015/12/15)
要は講演活動なんかに時間使わないで仕事に専念してください、というのが解任した側の取締役会側の主張。中島前社長側はちゃんと仕事しているし、そもそも解任は無効、という主張。
一概に悪いとは言えない講演活動
サラリと記事を読むと、仕事しないで講演会に時間使って何て奴だ、と思う所ですが、社長として講演活動して、講演活動の収入を会社に入れている方もおられます。正直、経営が厳しいセーラー万年筆。事業の好転が簡単に見込めないのであれば、中島前社長が元大蔵官僚の肩書で講演会して、その収入を会社に入れるほうが遥かに目先の収益に寄与します。
まぁ中島前社長が講演会の収入を会社に入れていたかどうかは分かりませんが、仮に講演会の収入を全額会社に入れていた、ということであれば、確かに本業に寄与する部分は少ないですが、会社の数字としては赤字の文具事業以上に会社に対し収益貢献していたことになります。
会社法上、代表取締役に取締役会の開催権限を与えることは可能だが結果は変わらない可能性大
中島前社長は、取締役会の開催権限は定款で社長=代表取締役にある、ということで、解任決議の無効を主張し、法廷闘争に入る模様です。
確かに会社法では取締役会の招集権者は代表取締役に限られた訳ではありませんが、第366条で定款で招集権者を指定することができる、とあります。よって同社の定款は、取締役会の招集は社長=代表取締役の権限になっていると考えられます。
ただし仮にそうであったとしても、別途手続きを踏めば他の取締役でも取締役会の招集は可能であり、結論的に事態は変わらない可能性が大です。
(会社法366条2項で定款で定められた取締役以外の取締会の招集権が認められています。取締役会の請求を行う取締役は、まず取締役会の目的である事項=代表取締役解任の件、を示して代表取締役に召集を請求。代表取締役が取締役会招集を応じない場合は、その請求を行った取締役は取締役会の招集が可能です。)
中島前社長は時間切れということではないかと
中島前社長がセーラー万年筆の社長に就任したのが2009年12月。それから既に6年の月日が流れています。
6年かけてセーラー万年筆の業績は上記の通り。通常の雇われ社長であれば、2~3年前にクビになっていたと考えられます。今回、社長解任ということで、センセーショナルに報じられていますが、企業再生を期待されて入社した社長が結果を残すことができなかった、と考えれば、ことの経過はさておき、遅かれ早かれ(というより遅すぎます)、中島前社長はセーラー万年筆を去らざるを得ない状況。
2015年12月期は黒字化予定、ではありますが、時間かかり過ぎです、正直。
法廷闘争がどうなるか分かりませんが、企業再建を期待された雇われ社長が企業再建に失敗した(少なくとも成功していない)、と考えれば、中島社長の退任は手段の議論こそあれ、当然の帰結と考えられます。
ファンドや投資信託で考えれば分かり易いですね。6年前に買ったファンドなり投資信託、手数料だけ引かれて全然値上がりしない・・・。景気がいいので他のファンドは値上がりしてるのに・・・。となれば損切する等しますので。
企業再生という観点からは中島前社長も時間切れ・・・
まとめ
中島前社長は実績出せなかったので会社を去る、というのは当然とすると、じゃあ今回中島前社長の退任を主導した現経営陣、果たしてセーラー万年筆を再建できるのか、という問題に真っ先にブチ当ります。コレはコレで非常に難しい問題です。ただし前社長を解任してまで、と言うことは余程の決意がなければできないので、その決意があれば経営再建の可能性もありそうです。
いずれにしてもセーラー万年筆、会社のゴタゴタで体力を消耗している状態ではありません。
実は管理人、このブログの記事の構想を練る時、セーラーの万年筆を利用しています。もう20年来の愛用品になっています。紙の書き心地は万年筆に勝るものはありません(和紙なら筆なんでしょうけど)。
今回ゴタゴタはありましたが、ユーザーの一人としてセーラー万年筆の立ち直りを心より願っています。