ソフトバンクグループが投資会社となる中で、ついに噂されていた国内携帯電話事業を手掛ける子会社・ソフトバンクの新規上場(IPO)が承認。12月19日が上場予定日です。
親子上場となるソフトバンクのIPO、気になるのは株価がどうなるのかという部分。PERやPBRで見ると想定価格の1,500円は割高に見えますが、通信会社を評価する際に欧米で利用されるEBITDA倍率で見れば割安な水準と言えます。
ソフトバンクのIPOについて「株価」という観点から探ってみました。
概要
遂に携帯電話子会社のソフトバンクが上場承認でIPOへ
今年の年初から話題となっていた、ソフトバンクグループ<9984、以下SBG>の携帯電話事業を手掛ける子会社・ソフトバンクのIPO。東京証券取引所は子会社上場ど真ん中の案件を認めてしまうのかな、と思い興味深く見守っていました。
後述しますが、SBGは見事に東証を納得させてソフトバンクの上場承認にまでこぎつけました。長くIPO市場を見ていますが、さすが孫社長と言わざるを得ません。
関連記事:
・ソフトバンクが携帯子会社を上場の方針、子会社上場を東証は認めてしまうのか?
・ソフトバンクの携帯電話子会社上場問題、ガンバレ東京証券取引所
ソフトバンクグループは投資会社に変身!
ソフトバンクが東証から上場OK、と言われたのは、要は既にSGBが携帯電話の会社ではなく、投資会社に変身してしまっているため。
2018年9月中間期の段階で、既にSBGは営業利益の半数近くを投資事業から計上しています。正直、ファンド事業の利益は一時的なものじゃないか、と言われてしまうとその通りの面もあるのですが、それでも数字上グループの利益の半分近くを投資事業で上げている事実に変わりはありません。
SBGは投資会社なので携帯電話子会社をIPOさせたい、と言われると東証はグウの音も出ません。何せ親子上場の例外のケースとして東証は、親会社と異なる事業を手掛ける子会社上場は認めるスタンスなので・・・。NTT<9432>が上場していてNTTドコモ<9437>が子会社上場しているのが代表例。管理人は東証のセミナーで親子上場の例外ケースとしてはNTTとドコモのケースを想定している、と耳にしたこともありますので。
そんな訳で原則親子上場を認めていない東証ですが、親会社のSBGは投資会社、子会社のソフトバンクは携帯電話会社で事業が全く異なっている、というロジックで見事に子会社上場を勝ち取るに至っています。
管理人はそれでも子会社上場はどうかな、と思います。しかし筋論で言えば、SBGは債務保証を外すといったテクニカルな宿題から親子の事業領域問題まで、東証の宿題に見事に答えた形で、親子上場を勝ち取っています。SBGそして孫社長はお見事としか言いようがありません。
ただしどうも投資家の理解は進んでいないようです。管理人の周りは、既にIPOしているソフトバンクがなぜ新たにIPO?という方が多数でした。
関連記事:ソフトバンクのIPOの問題点は社名にあり、ソフトバンクGとソフトバンクの区別ができていない投資家が多数
ソフトバンクの業績推移
では新たにIPOする携帯電話会社ソフトバンクの業績推移をまず見てみます。(国際会計基準)
2016年3月期 売上高3兆4106億円、営業利益6440億円、純利益3995億円
2017年3月期 売上高3兆4831億円、営業利益6787億円、純利益4412億円
2018年3月期 売上高3兆5470億円、営業利益6419億円、純利益4127億円
2019年3月期予想 売上高3兆7000億円、営業利益7000億円、純利益4200億円
※純利益=親会社の所有者に帰属する純利益
2016年3月期から2018年3月期までの業績は横ばい。当期から増収増益となる計画です。当期の業績の進捗率は中間期の段階で、売上高49%、営業利益63%、純利益70%となっていて、ほぼ計画達成に目処が立ち始めています。
ソフトバンク=急成長、といったイメージがありますが、今回のIPOは携帯電話事業のIPO案件です。成長イメージは親会社のSBGが持っていくような形であり、ソフトバンクは着実な成長イメージとなります。
ソフトバンクの株価について
ソフトバンクのIPOに際し、想定株価は1,500円とされています。
想定株価の1,500円で計算すると、ソフトバンクの時価総額は7兆1800億円。NTTドコモとKDDIの業績と時価総額を合わせて比較すると下記になります。
NTTドコモ<9437>→時価総額9兆6400億円
・18/3期 売上高4.7兆円、経常利益9700億円、当期純利益7400億円
※米国会計基準
KDDI<9433>→時価総額6兆2500億円
・18/3期 売上高5.0兆円、営業利益9600円、当期純利益5700億円
※国際会計基準
ソフトバンク<9434>→時価総額7兆1800億円
・18/3期 売上高3.7兆円、営業利益6400億円、純利益4200億円
※国際会計基準
時価総額で見ると、NTTドコモ>ソフトバンク>KDDI、の順番です。利益規模からすると、KDDI>ソフトバンク、じゃないか???まぁ、IPOのご祝儀ということかと。(本当はIPOディスカウントなんですけどねー)
KDDIの株価が割安なのか、ソフトバンクの株価が割高なのか、ここは判断が分かれる所ですね。
ソフトバンクの予想PERは17.1倍
想定価格1,500円の場合、ソフトバンクの予想PERは17.1倍となります。
NTTドコモ→予想PER13.7倍
KDDI→予想PER9.6倍
ソフトバンク→予想PER17.1倍
予想PERから見ると、ソフトバンクが最も高水準。ちなみにNTTの予想PERは10.0倍です。
けどね予想PERベースで、ソフトバンクの株価がKDDIの2倍近いというのは、流石にソフトバンクの株価高すぎないか、と思わないでもありません。
ソフトバンクのPBRは中間期ベースで5.6倍
ソフトバンクの18/3期の1株当たり親会社所有者帰属持分は155.75円。想定株価1,500円で計算すると、PBRは9.6倍です。
NTTドコモ→PBR1.6倍
KDDI→PBR1.4倍
ソフトバンク→PBR9.6倍
うーむ計算間違いかな・・・。けどソフトバンクの18/3期末の数字は下記。
資本合計722,278百万円
発行済株式総数4,787,145,170株
BPS(1株当たり純資産)150.87円
よってBPSから算出したPBRの値は間違ってないハズ。
ただし18/9中間期で見ると、
資本合計1,203,009百万円
BPS(1株当たり純資産)251.30円
PBR5.6倍
期末と中間期で数字は変わりますが、それでもPBRから見るとソフトバンク株は相当割高ですぜお客さん、そんな感じです。
本当は償却前利益(EBITDA)で見ないとダメ
通信会社は設備投資額が多く減価償却費が多いので、欧米基準で見れば償却前利益(EBITDA)で評価しないとダメなんです。
簡単な方法(税引前当期利益+減価償却費)で償却前利益を計算すると下記となります。
ソフトバンクは883,475百万円の償却前利益なので時価総額から逆算すると、EBITDA倍率は約3.1倍。
NTTドコモ→償却前利益1,232,123百万円、EBITDA倍率7.8倍
KDDI→償却前利益1,501,962百万円、EBITDA倍率4.1倍
ソフトバンク→償却前利益883,475百万円、EBITDA場率約3.1倍
EBITDA倍率から見ると、ソフトバンクは意外に割安だったりします。
PERやPBRと言った日本の個人投資家視線だと一般的な指標だと割高だけど、EBITDA倍率といった業界標準で見ると割安、こんなロジックで主幹事証券とSBGで折り合ったのかな、というのが率直な感想です。
配当性向は85%、インカムゲイン狙いの銘柄になる可能性がある
ソフトバンクはIPOに際し、配当性向85%を目指します、としています。利益の85%を配当に回してしまう訳で、投資家にとってはありがたいお話。
2019年3月期は上場後半年未満なので、実行に移されるのは来期の2010年3月期から。仮に想定価格1,500円で2019年3月期の配当額を2倍にすると、配当利回りは5%。
ソフトバンク株、インカムゲイン狙いの株式となる可能性もあります。
日産が配当金を高くしてルノーに上納金収めている構図に似てるよね、と思わないでもないですが、インカムゲイン狙いの投資家も一定数いるので、株価次第では取りうる選択肢です。
ソフトバンク株は買えるのか?
正直、IPO株なのでソフトバンク株を買えるか買えないかなんて理論はさておき、出たトコ勝負です。
ただし国内基準だと割高に見えて、海外基準だと割安に見える株価の値付けはうまいこと考えたなー、と思います。
だって国内の個人投資家でPERやPBR見てIPO株買う人なんて殆どいませんから。いたって、IPO株に理論は通じませんし。
ただし1つだけ言えるのは、配当性向85%を目指すと言って、IPO後になーんにも考えずにノンベンダラリとポリシーなく株を持ち続けるのはリスクがあります。通信会社が安定株だなんて誰が言った?
通信業界は確かにネットやモバイル業界に比べれば流れは緩やかですが、それでもメーカー等に比べれば、十分市場の流れが速い業界です。気を抜けばソフトバンクだって、環境変化についていけなくなるリスクがあります。頼みの孫社長は投資事業に注力中ですし。
また通信事業はタイミングによっては莫大な設備投資が必要となります。足元設備投資のピークは越えたようですが、果たして配当性向85%の目標をいつまで維持できるかは、やってみないと分からない世界。
設備投資は貸借対照表(B/S)の科目で、配当原資は損益計算書(P/L)の科目なので、それほど影響はない、という意見もあろうかと思いますが、配当も設備投資も同じ現金を利用します。通信会社は設備投資にお金がかかるという視点は忘れてはならないと考えます。
そんな訳でソフトバンク株を高配当の安定株と決めつけてしまうのは、通信会社という業種柄、結構なリスクと考えますのでご注意ください。
ソフトバンク株の取扱い証券会社
ソフトバンクのIPOについて国内の取扱いの証券会社は下記の13社です。
・野村證券
・大和証券
・SMBC日興証券
・みずほ証券
・三菱UFJモルガン・スタンレー証券
・SBI証券
・岡三証券
・東海東京証券
・岩井コスモ証券
・水戸証券
・西日本シティTT証券
・松井証券
・マネックス証券
・あかつき証券
個人投資家がインターネットでソフトバンク株を申込するなら、SMBC日興証券、SBI証券、岩井コスモ証券、松井証券、マネックス証券はスムーズな手続きが可能です。
IPO投資は証券会社の口座数が勝負を決めます。今回を機会に口座開設されてはいかがでしょうか?
関連記事:IPO投資の始め方、証券会社に複数の口座を持つことが必須
まとめ
既に様々なサイトでソフトバンクのIPOについて記事が書かれています。当サイト「株価プレス」という名前なので、今回はそれっぽくソフトバンクの株価にフォーカスして記事を書いてみました。
2.8兆円を株式市場から吸い上げるソフトバンクのIPOは、株式市場にとって非常に注目度の高いイベントになります。
果たしてソフトバンクの株価は、どのような形で推移していくのか。今後注目したいと思います。
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