ウエスタン・デジタルがサンディスクを買収、東芝の半導体事業に嫌な予感

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 アメリカでは大型のM&Aが続いています。先日デルが約8兆円でEMCを買収すると発表しましたが、新たにハードディスク大手のウエスタン・デジタルがメモリー大手のサンディスクを約2兆2800億円で買収と発表。アメリカの資本主義のダイナミズムを感じます。

 ただウエスタン・デジタルの買収、日本にとってはひょっとすると他人事ではなくなる可能性が。サンディスクは再建が急務の東芝にとって、東芝の虎の子とも言うべき半導体事業の非常に大切な事業パートナー。そのサンディスクを買収するウエスタン・デジタルには中国の清華紫光が15%を出資し、取締役も派遣。
 
 東芝は再建に向けた矢先、虎の子の半導体事業で不確定要素を抱え込むことに。何だか嫌な予感がします。(2015年11月4日更新)

サンディスクとは?

 サンディスクはアメリカのフラッシュメモリーの会社。家電量販店でデジカメ等のメモリーコーナーに行くと、SanDisk、のロゴが入ったメモリーをよく見かけますが、アレを作っている会社です。ナスダック上場会社で売上高は約6,627百万ドル(2014/12期)。
 東芝と提携しており、サンディスクのメモリーは東芝と共同投資した四日市の半導体工場で製造している、という特徴があります。

 この、東芝と共同投資した四日市の工場、というのがポイントで、単なる技術提携にとどまっておらず、お互いにお金を出し合って四日市の半導体工場を設立・運営しているという部分が最大の特徴。

 そして今回、サンディスクがウエスタン・デジタルに買収される=サンディスクはウエスタン・デジタルに身売りする、と発表がありました。

「サンディスク、米HDD大手が買収 東芝との提携は維持」(朝日新聞デジタル2015/10/22)

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サンディスクはフラッシュメモリーの会社

半導体事業はお金がかかる!東芝とサンディスクはお互いを補完

 半導体工場の立ち上げは莫大な資金が必要となります。尚且つ、この莫大な投資をし続けなければ業界で生き残るのが難しい、という非常に苛烈な業界。設備投資の停止=死、を意味します。

 そんなチキンレース的な半導体業界、東芝は過去に大火傷をした後に再度チャレンジをして半導体が稼ぎ頭になった、という経緯を有しています。そんな訳で東芝は半導体事業のゲームのルールは骨の髄まで分かっています。
 しかし東芝といえども、さすがい単独で莫大な設備投資資金を捻出し続けるのはシンドイ、ということで一緒に組んで半導体=メモリー事業を行ってきたのがサンディスク。

 東芝とサンディスクの提携、どちらかが技術をライセンス提供してもう片方が作る、という関係ではなく、両社ともに設備投資のお金を出し合う、というのが最大の特徴。1社だと800億円しか出せなくても、2社合わせれば1,000億円出せる、これをすることで設備投資の積み増しができ、規模のメリットも働くことで(大きな投資をすれば製品単価を安くできるので)、他社に対し競争で優位な立場を築くことができます。

 そして苦しい経営状況の中で、今後も稼いでもらわねばならない東芝の半導体事業。更に出せるお金もこれまで以上に限られてくる中で(現状を考えると東芝は増資でもしない限り、手元も資金は簡単に増えません)、東芝にとって一緒にお金を出せる=金融的発想で言えばレバレッジを掛けられる、サンディスクの存在は東芝にとって欠くべからざる存在と言っても過言ではありません。

16.6.17お金-min
半導体事業は莫大なお金がかかります

サンディスクはこれまで日本に9000億円以上を投資

 東芝の四日市の半導体工場はサンディスクも投資して、工場の一部がサンディスクの所有というのは、それなりに知られていますが、サンディスクはこれまでどれだけ日本に投資してきたのか?

 調べてみると面白い記事を発見。

日本においては、2002年から今までの累計で、投資額が9,000億円を超えた。日本に対して、最も投資額の大きい米国企業のひとつのサンディスクであり、~(世界の半導体アライアンスで最も成功している東芝とサンディスク – 三重県・四日市の半導体工場で次世代NANDの生産を本格化:マイナビニュース

 2014年9月の記者会見の記事ですが、1年前の段階でサンディスクは日本に対する累計投資額が9000億円とコメントしています。
 サンディスクの設立は1988年、そして東芝とメモリ事業で提携したのが1999年10月。

「NAND型フラッシュメモリ事業に関する提携について」(1999/10/7東芝のプレスリリース)

 提携が具体的にスタートしたのが2000年からとすれば、2014年までの14年で9000億円をサンディスクは日本に投資=東芝とともに工場に投資してきた、ということになります。9000億円の全部が全部、東芝との共同投資という訳ではないにせよ、要は設備投資なので大半は東芝との共同投資と考えらえます。

 累計とは言え約9000億円、東芝は設備投資資金の負担が軽減できた訳で、東芝にとってサンディスクの恩恵は計り知れません(逆にサンディスクにとっても東芝の存在は必要不可欠ですが)。

 莫大な金のかかる半導体事業、単独での資金負担に限界のある東芝とサンディスクは提携によってお互い資金を出し合うというモデルを築き上げることで、勝ち残ってきたという歴史があります。

 まぁしかし、サンディスクの日本国内の設備投資額が累計とはいえ9000億円オーバーというのは驚き。
 そこまでの金額を投資していたとは全く知りませんでした。半導体事業、ホントお金がかかります。

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外資系は経営が変わると取引の見直しは日常茶飯事

 日本もそれ程変わらなくなりつつありますが、外資系の会社の場合は取引先が別の会社にM&Aされたら、取引が見直しになるのは日常茶飯事。それは会社の大小は問わない訳で、今回ウエスタン・デジタルに買われることになったサンディスクも可能性としては、東芝との提携を見直します、という可能性もありえます。

 当然第一報では、東芝とサンディスクの関係はこれまで通り、と報じられていますが、今後はウエスタン・デジタル次第。
 メモリ事業が欲しくてサンディスクを買収したウエスタン・デジタル、メモリ事業から撤退、ということはありえませんが、組む相手を変える、と言い始める可能性は十分あります。

 さすがにこれまでの投資分があるので、もうやめた、という話にスグなることは無いでしょうが、今後の東芝とサンディスクの関係、これまで通り何もなかったように・・・、となるとは誰も言い切れません。

ウエスタン・デジタルのサンディスク買収、中国の清華紫光も関与

 今回のウエスタン・デジタルのサンディスク買収、中国の清華大学の事業部門の清華紫光も関与しているようです。

最終的な買収額は、中国政府系の清華ホールディングス[TSHUAA.UL]子会社によるウエスタン・デジタルへの投資により左右される。「米ウエスタン・デジタル、サンディスクを190億ドルで買収」(ロイター2015/10/22

 ウエスタン・デジタルには清華紫光が株式の15%を38億ドル(約4563億円)で取得することを10月に合意済みです。

「中国の清華紫光、ウエスタンデジタルに38億ドルを出資(ブルームバーグ)」

 そして早速、ウエスタンデジタルは調達資金を利用してサンディスクの買収に打って出た形に。ブルーブバーグの記事によると、清華紫光はウエスタン・デジタルの取締役会にメンバー1人を擁立する権利を有しており、当然今回の買収は中国側の意向も背景にあると考えられます。

 尚、中国の清華大学と言えば中国では1911年設立の理系の名門大学。胡錦涛、習近平と2代続けて国家主席を輩出しています。

中国は半導体産業の育成に注力中

 産業の高度化を目指す中国政府、目下のところ半導体産業の育成に注力しています。その先兵が、清華大学の事業部門の清華紫光。清華紫光はブルームバーグの記事にもあるように、アメリカのメモリーメーカーのマイクロンに対しても買収提案を7月に行った、と報じられています。

「中国の清華HD、米マイクロンと買収に向け協議継続中=徐会長(ロイター)」

 金食い虫であっても、生産設備を揃えれば生産できてしまうメモリーは、太陽光パネルや液晶パネルに比べれば技術的ハードルは高いですが、それでもビジネスモデルとしては似ている部分があります。

 スマホの生産が盛んな中国ではありますが、メモリーは100%輸入に頼っており、その意味でもメモリーの内製化は理に適った面もあります。
 液晶パネルそして太陽光パネルと日本及び韓国は最終的に中国のメーカーにやられてしまった訳ですが、同じ構図が半導体メモリーでも再現されてしまうのでしょうか?

15.7.21中国国旗
ウエスタン・デジタルのサンディスク買収、中国の会社も一枚嚙んでいます

東芝には何だか嫌な流れに

 今の段階で、東芝のサンディスクの関係がどうにかなる、ということはないと考えられます。

 ただね、何か流れ的に嫌な感じがします。再建を半導体事業に任せざるを得ない東芝、そしてその半導体事業に欠かせないパートナーが買収されてしまう・・・。東芝も苦しくなっているので、半導体の設備投資の資金、単独で捻出するのがこれまで以上に厳しくなる中、サンディスクの存在は益々大きくなるなかでの今回の買収劇。
 ついでに言うと、今回の買収相手方に中国の企業=清華紫光も絡んでます。そして東芝の半導体事業の状況は、サンディスクを通じてウエスタンデジタルに取締役を派遣する、清華紫光に筒抜けとなります。

 サンディスクがいようといまいと、半導体事業は儲かるときはエラク儲かりますが、儲からない時はホント莫大な金食い虫。この金食い虫を飼い続ける必要があるのが、半導体事業。
 今後シリコンサイクルの波等で、利益が出なくなった時に一抜けた、とサンディスクにされたら東芝の半導体事業、困るだろうなぁ。今と言うより、次の谷の時に。

 東芝は再建を、目先で利益の出ている半導体事業に託している状態となっていますので。

 杞憂に終わることを願っていますが、なんだか流れとしてはイヤーな感じがします。トレーダー目線で言う、流れ、というやつです。

 実際、不適切会計問題が出て以来、東芝の株価はズーッと下がりっぱなしです。

15.10.26東芝株価-レンジ月足チャート-min

東芝の株価詳細記事は下記をどうぞ。

まとめ

 東芝の再建計画、要は半導体が稼いでいる間に何とか再建の道筋をつけます、というものです。シャープのように、再建計画の柱自体が儲かっていません・・・、という状態ではないので、まだ具体性はありますが、それにしたって、上下の波が激しい半導体にその命運を委ねる計画。原発事業という重石を抱えながら、ボラティリティの激しい半導体事業を中心に会社を再建すると言う、何とも難度の高い戦いに東芝は臨もうとしています。

 そこにいきなり出てきたウエスタン・デジタルによるサンディスクの買収。サンディスクの買収には東芝の賛成も必要の様子で、東芝も賛成、とのことですが、東芝にとっては虎の子の半導体事業で不確定要因を新たに抱え込むことになります。

 今回のウエスタン・デジタルのサンディスク買収の東芝に対する影響、今後どうなるのか。管理人の嫌な予感、杞憂になることを願いつつ。

参考記事:「東芝の不適切会計問題の記事まとめ」

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