宮迫博之と田村亮の会見で各TV局が吉本興業の株主となっている実態が明らかになりました。ただしそれをもって吉本がTV局に大きな影響力を持っている、と考えるのは少々早いです。
株主の観点から吉本とTV局の関係を見ると、一般的なイメージとは異なり逆に吉本がTV局に対して弱い立場にあります。TV局に未上場の吉本の株を持ってもらっている立場の吉本興業、今後の対応が注目されます。
概要
宮迫博之と田村亮の会見でTV局が吉本興行の株主という発言が話題に
反社会的勢力からギャラを貰ったとして、結果として吉本興業から契約解除となった宮迫博之と田村亮(敬称語略)の記者会見が行われました。
管理人、外出先の喫茶店で仕事していたのですが、周りでPC持ってる人の多くが記者会見見てました。
で家に帰ってTVやらネットを見ていると、多数のTV局が吉本興業の株主になっている、という部分が話題になってました。だから吉本はTV局に対して影響力がある、と。
うーむ、なにか違うような。吉本が各TV局の株主ならわかりますが。けど未上場の吉本興業にそんな資金力があるとも思えません(以前IPOしてましたが、その後の上場廃止の時に結構散財してた記憶があるので、今はそんなに金持ち会社ではないのでは)。
吉本興業は未上場会社、株主にTV局が非常に多い状態
まず最初に踏まえるべきは、吉本興業(正式には吉本興業HD)は未上場会社、という点。未上場会社なので、株主は勝手に株を売ったり買ったりできませんし、日常的な株価の変動もありません。ちなみに未上場会社は株に譲渡制限を付けるのが普通なので、株主といえども会社側の了解なしに(正式には会社側の取締役会の承認なしに)勝手に株は売れません。
Wikiに掲載されている吉本興業の上位株主は下記となっています。
1位 フジ・メディア・ホールディングス 12.13%
2位 日本テレビ放送網 8.09%
3位 TBSテレビ 8.09%
4位 テレビ朝日HD 8.09%
5位 大成土地(創業家の資産管理会社) 8.09%
6位 京楽産業8.09%
上位6位までで株主シェアの52.58%となっていて、50%を超えています。ちなみに7位以下もTV局の株主が多く、吉本興業の株主はTV局が非常に多い状態です。ちなみに株主シェアはwikiが出展ですが、株主の名前自体は吉本興業のサイトにも記載があるので株の比率はさておき株主の名前自体は信頼できるかと。
・吉本興業の株主(同社のwebsiteより)
上場会社は基本的に未上場会社の株を持つのを敬遠する、未上場会社から見ると株主になってもらっている立場
単に吉本興業の株主名簿だけ見ると、吉本はTV局に大きな影響力を持っているように見えるのですが、現実はそんなに簡単ではありません。
基本的に上場会社は株を持ちたくありません。金融庁のご指導もあり持ち合い株も売っている昨今、未上場株を持つには相当の理由が必要です。一般的な見方としては、吉本側がTV局にお願いして株を持ってもらっている、そんな立場になります。
業界特有の持ちつ持たれつ、という関係で一方的な関係ではないと想像しますが、それでも資本市場の観点からは、上場しているTV局から見れば吉本の株を持ってやってるんだ、と思っていても不思議ではありません。
ついでに言えば、吉本は以前上場しており2010年に上場廃止となっていますが、上場廃止の後に現在の株主構成になっているため、吉本はTV局にお願いして株主になってもらったんじゃないかな、と個人的には推測します、違ったらごめんなさい。(だから持ち合いはあっても非常に少数株のハズ、フジ・日テレ・TBS・テレビ朝日の上位株主に吉本興業の名前はありません)
株主という観点から冷静に見て、吉本興業からTV局への影響力というのはそんなにあるとは思えません。
取引先が株を持つと逆に立場が弱くなるケースも、ルネサスエレクトロニクスや東芝メモリー
取引先に株主になってもらうって、実は商売上のリスクがあります。
例えばルネサスエレクトロニクスはトヨタが大株主ですが、ルネサスから見てお客さんのトヨタが株主になっているため、株主プライスにまけてください、というプレッシャーは相当強いと容易に想像できます。よって株主向けの商売は利益が上がりにくい面があります。子会社に安い価格で仕事をさせるのと似てます・・・。
先日東芝メモリーがアップルから株を買い戻した、という報道がありましたが、あれも同じで、アップルというお客さんが株主だと、通常の商取引が行えないリスクがあるため。
業務提携して一緒に商売しましょう、という関係なら良いのですが、資金の流れが一方的の場合、取引先が株主ってビジネス上あまりよろしくありません。
吉本の芸人はギャラが安い、というのは各方面でネタになっていますが、株主構成から見ると、TV局側が株を持ってやってるんだからギャラを安くしてよ、と吉本に言ってる姿が想像できます。吉本の芸人さんのギャラが安い理由は、対TV局で考えるとそんな理由もあるのでは?
TV局から吉本興業の総務に苦情殺到では?
今回の宮迫博之と田村亮の会見を受けて、焦っているのは吉本興業の株主になっているTV局側も同じ。吉本興業の株主にTV局が名前を連ねていることが話題となっており、TV局側としてはいい迷惑です。
TV局は総務省から免許をもらって事業を運営しており、総務省から、何て会社の株主になってるのオタクは、と言われるのが一番マズイです。今後吉本側がどんな対応するかまだ分かりませんが、更に炎上するとTV局にも延焼しかねないので、勘弁してよ・・・、というのがTV局側の本音ではないかと。
とりあえず吉本側の株主対応部署は、土日返上で株主に対する説明に当たっているのではないかと。いい迷惑だからもう株を買い戻してくれませんかね、と言われている可能性もあります。吉本の立場としては、コレが一番辛い。安い価格なら買い戻しますよ、と売り言葉に買い言葉でやると、それこそ出禁になりかねません。関西は吉本抜きにTV番組作れませんが、関東は別に吉本無しでもTV番組作れますので。
まとめ
ネットの意見を見ていると、吉本のTV局に対する影響力の大きさが話題になっていました。吉本がTV局の株主になっているならその通りですが、今回は逆のケースなので、少なくとも株主の観点からは吉本のTV局に対する影響力はそんなに強いとは思えません。逆にTV局側の無茶を聞く必要がある立場で、吉本の立場は弱いくらいです。
ジャニーズ事務所のように、人気芸人を出さない等でTV局に業務上の圧力をかける手段は吉本にはありますが、それは株主構成の問題とは別問題です。
株を商売の道具に使うと正直商売がゆがんでしまうケースが多いのですが、吉本の場合はゆがむ場合は吉本側に不利に働きます。
今回の一件、最終的にどんな着地となるか分かりませんが、未上場会社の吉本興業とTV局の関係を資本の観点から見ると、そんなに吉本の立場が強いとは思えないので、土曜の夜に取り急ぎ書いてみました。
しかし今回の問題、完全に吉本興業に延焼しています。最終的にはどんな着地になるのでしょうか。非常に興味深いです。
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