ドイツの自動車メーカーフォルクスワーゲン(VW)がアメリカでディーゼルエンジンの排ガス規制を逃れるために不正を行っていた、と報じられています。内容的には、完全にVWの自滅=オウンゴールで、遂にはCEOが退任の事態に。
VWに対する制裁金2.2兆円(180億ドル)、不正の対象台数1,100万台、とも言われている今回の問題、VWの株価が30%以上下がっただけでなく、ドイツの株式市場全体にもVW株価下落が影響し、ドイツ経済全体が騒動に巻き込まれつつあります。
「VW排ガス規制、不正1100万台 制裁金2兆円超も」(朝日新聞)
今回の問題、WVのディーゼルエンジンの問題で、幸い日本には殆ど対象車種は入ってきていないようです。日本としてはホッと一息?イエイエ、実はVWの排ガス不正問題、マツダとトヨタが困った状態になり、スズキが冷や汗をかいた状態となっています。(2016年1月27日更新)
概要
ヨーロッパではディーゼルエンジンがエコカーの本命
日本ではディーゼル車というとどうしても”黒煙”のイメージがあり、排ガス規制の強化とともに姿を消してしまいました。しかしながら、所を変えてヨーロッパでは、ディーゼル車こそがエコカーの本命として普及しています。
ヨーロッパでも排ガスの問題はあったにせよ、エンジンや触媒技術の進化によって、ディーゼル車は現在ヨーロッパではエコカーの最先端を走っています。
元々ガソリンエンジンに比べ燃費の優れているディーゼルエンジン、それが証拠に燃料をガブ飲みする戦車は昔からディーゼルエンジン、と相場が決まっています(一部例外はありますが)。
そのディーゼルエンジンが技術の進歩によって、排ガスと騒音の問題が解決できれば、そりゃエコカーのエンジンとして普及するのは技術の進歩からすれば道理。
ちなみにディーゼルエンジンを世界で最初に開発したのはドイツ。そんなこともディーゼルエンジンがヨーロッパで普及した一因かもしれません。
日本でエコカーと言えばご存じハイブリッドカー。やれガラパゴスだ、やれ構造が複雑だとか言われつつ、着実に日本でハイブリッドカーは普及しました。確かにディーゼルエンジンと比べ、構造が複雑なハイブリッドカー、普及したのはひとえにプリウスを開発したトヨタのお陰でしょう。気が付けぼプリウスやアクア、フィットハイブリッドといったハイブリッドカーを街で随分と見かけるようになりました。
実はホンダは、エコカーの本命はディーゼルカーとしばらく考えていて、それが故にハイブリッド競争でトヨタに完敗した、という経緯もあります。それだけ国内の自動車業界もディーゼルかハイブリッドかが割れていた、ということで、経営判断の難しさが現れています。ただし、その後自前で何とかハイブリッド技術をモノにしてたンダは流石の技術力です。その後、リコールでミソをつけてはしまいますが。
エコカーで我が道を行く自動車大国アメリカ、そのアメリカがVW不正の震源地
世界に冠たる自動車大国アメリカ。アメリカのエコカー事情はどうかと言えば、エコカーがナンボのもんじゃい、という状態。確かにセレブなお金持ちはハイブリッドカーやら電気自動車を購入していますが、やはりアメリカで自動車の本命はドデカイ車。景気回復もあって、ピックアップトラック的な車が特に最近よく売れているようです。当然、燃費悪しです。
しかしシェール革命で自国でガソリンが賄えるようになり、ガソリン代も下がり、アメリカは完全に我が道を進んでいます。まぁアメリカらしい、と言えばアメリカらしいのですが。
そしてそのアメリカで今回のVWの排ガス不正の震源地。アメリカで自動車シェアの低いVWが不正をやって、大騒動になっている訳です。
2015年8月のアメリカのメーカー別新車販売シェア
1位GM-17.1%
2位フォード-14.8%
3位トヨタ-14.2%
4位クライスラー-12.8
5位ホンダ-9.9%
6位日産-8.5%
7位現代-4.6%
8位起亜-3.7%
9位スバル-3.3%
10位VW-2.0%
出所: Autodata
実はVWのアメリカの新車販売台数、日本のスバル=富士重工以下だったりします。世界最大の自動車販売台数を誇るVWですが、意外や意外その存在感はアメリカでは希薄と言わざるを得ません。
実はアメリカでのシェアは低いVW、管理人はVW=ビートルのイメージが未だに抜けません・・・
世界ナンバーワンの自動車販売台数を誇るVW。そこがオウンゴールでこけて、ライバルの日本車メーカーからすればシメシメと思いきや、実はそーでもなさそうです。
まずいなぁこれは、と思っているのがマツダとトヨタ。そして、間一髪間に合った、と冷や汗をかいているのがスズキ。
こんな構図ではないかと。
ディーゼルエンジンに注力中のマツダ
今回のVWの不正の一件で、一番とばっちりを食いそうなのがマツダ。マツダには何の罪もありませんが、マツダはまさにこれからディーゼルエンジン車で攻勢をかけようとした矢先のこの事件。
昨年からデミオ等でディーゼルエンジン搭載車を増やし、評価も高まってきたマツダ、いよいよディーゼルエンジンでこれから巻き返しだ、と意気込んでいたところでこの事件。確かに日本市場への影響は少ないと考えられますが、それにしてもディーゼルエンジンに対するイメージの低下は避けられません。特にマツダはヨーロッパで比較的強い自動車メーカーでもあり、ライバルではありますがVWがやってくれた、という状態。
シルバーウィーク明け9月24日(木)の日本の株式市場、マツダ株は終値1,836円(▲134円)と▲6.8%。株式市場の最初反応は、VWの排ガス不正問題はマツダにとってネガティブ、というものでした。
業績は好調ながら、株価が今一つさえないマツダにとって、VWの不正問題は株価にとってWパンチとなっています。
しかしながらマツダはハイブリッドでトヨタと提携済み。ディーゼル市場がニッチもサッチも行かなくなった際は、ハイブリッド化を前面に押し出す、という選択肢は有しています。
また不正をしているのはVWのみ、と言うことになれば、ヨーロッパでのマツダの存在感は高まって、マツダにとっては好機到来となる可能性も。
今回のVWの不正問題、ヨーロッパの自動車ユーザーがディーゼルエンジンについてどう捉えるのか、マツダにとっては気が気でない状況が当面続くことになりそうです。
そして別途、マツダの株価について分析及び今後の予想を行ってみました。下落基調のマツダの株価、今後迎える株価の節目でどう動くかに注目です。
関連記事:マツダ株価の今後の見通しと予想
※2016/3/4追記
国土交通省の調査では、マツダのディーゼル車は走行中でも概ね屋内基準値をクリアしているようです。ちなみに基準をクリアしているのは国産車ではマツダ車が唯一でした・・・。
世界ナンバーワンになりたくないトヨタ
実は新車販売台数世界ナンバーワン、って業界では鬼門なんです。今回のVWもそうですし、トヨタが2009年アメリカでリコール問題に見舞われた際も、世界新車販売台数ナンバーワンの時。トヨタはこのナンバーワンのリスクを身をもって体験しています。
そんな経験もあって、トヨタは販売台数世界一という数字を追わずにここ数年、我が道を進んで来ました。ちょうどVWが世界一になって、世界一はあちらにお任せ状態でこれまでトヨタはやって来た訳ですが、今回はVWの自滅によって、世界一の座が困ったことに転がり込んで来ることに。
かつての経験から、世界一の座に着くとロクなことにならない、と分かっているトヨタ、困ったことになったなぁ、と思っているのではないかと。
関連記事:トヨタ自動車株価の今後の見通しと予想
あっぶねー、と冷や汗をかいたスズキ
先日、正式にVWと離婚が成立したスズキ。今回の事件の発覚を知っていたとは思えませんが、正式離婚を発表するには、まさにベストタイミングとなっています。
さすがカリスマ鈴木会長、持っているとしか思えません。管理人は会社も人間と同様、「運」というものがあると思っていますが、スズキは運がいいとしか思えません。
あっぶねー、助かった、と冷や汗をかいている状態?
まぁ、実はVWの側で今回の件でスズキにかかわっている場合ではない、という判断が働いた可能性もありますが(そう考えると、結構筋が通るんだよなぁ)。
スズキはVWの保有株を自己株で買い取りますが、スズキが買い取った株の行方、今後予想されるVWの墜落もあり、更に注目を浴びることになりそうです。
関連記事:スズキ株価の今後の見通しと予想(2015年9月30日版)
※実はスズキの株価、今後を占う上で重要な価格に位置しています
そして、VWとの提携に際しスズキもVWの株を取得していましたが(シェア1.5%)、提携解消に伴いVWの株式の売却を発表しています。
スズキのVW株式の売却益は約367億円!
「当社保有のフォルクスワーゲン のフォルクスワーゲン AG 普通株式売却のお知らせ 売却のお知らせ」 (スズキのIR)
ほぼ時価相当(700億円前後)とみられ、スズキがVW株を取得した金額のほぼ倍となる。(日本経済新聞2015/9/27)
VW株急落中で予想より売却益が減ったとは言え、それでも300億円以上の株の売却益。将来的な技術面はさておき、スッタモンダあったVWとスズキの関係、スズキとしてはどうにか、正式離婚できたようです。
ただしスズキはVW保有のスズキ株(株主シェア19.90%)を買い取る必要があります。
スズキは2009年にVWに株価@2,061円で107,950,000株=2,224億円の第三者割当増資(自己株処分方式)を実行しています。
当時のスズキのIR:第三者割当による自己株式の処分の払込完了、並びに主要株主及び筆頭株主の異動に関するお知らせ
現在のスズキの株価@3,700~4,000円で見ると、スズキは第三者割当増資で受け取った資金より1,700億円以上の持ち出しが発生するため、VWとの提携で非常に高い勉強代を支払うことになりました。
しかしスズキはVWから買い取った自社株をどうするんでしょ?再び提携先を求めて・・・、ということになるのか、VWとの提携に懲りて自力での生き残りに腹を括るのか、今後のスズキの自社株の行方に注目が集まりそうです。
※スズキはトヨタとの提携で自己株問題に決着をつけるべく交渉中のようです
まとめ
フォルクスワーゲン(VW)の自滅とも言うべき今回の排ガス不正事件。今後の事件がどんな展開になるのか、現段階では分からないことが多く、予断を許せません。まずは、影響がアメリカ以外の国に飛び火するかどうかがポイント。VWは幸いにしてアメリカでのシェアは低いので、問題がアメリカに留まれば、影響は最低限にとどまる可能性もあります。
ちなみに、当記事ではVW本体についてあまり触れていません。VWの株価や株主、そもそもの不正問題については、下記をご覧ください。
関連記事:「排ガス不正問題のVWの株価や株主など、色々まとめてみました」
しかしドイツの会社も不正をするんだ・・・、というのはトッテモ意外。VWはそんなにアメリカであせっていたのか?しかし、テストの際だけソフトが機能して排ガスをキレイにするって、いずれバレそうなもんですが。実際バレた訳ですが。中国でのシェア拡大を背景に、世界トップの座に躍り出たVWですが、中国経済の躓きの前に、自分から躓いてしまっています・・・。
間接的に日本の自動車メーカーではマツダ、トヨタ、スズキが関わっている、今回のVWの問題。今後各社への影響や如何に?日本にもディーゼルエンジンの部品を製造しているメーカーが多く景況が懸念されます・
日本経済、そして日本のモノづくりの中心に位置しているとも言える国内自動車メーカー、VWの排ガス不正問題の行方は要注意です。
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