大阪大学の設立したベンチャーキャピタルが118億円でベンチャーファンドを設立。大阪大学が100億円出資して、残りは金融機関が出資。国立大初の試みに注目が集まります。
ただし、全体的に見れば成功しているとは言えない大学発ベンチャー、大学でファンドを設立した所で成功のためには高いハードルが存在。期待と不安が半々なニュースです。
概要
大阪大学のベンチャーキャピタルファンドに金融機関が出資
既に設立されていた大阪大学のベンチャーキャピタル、VCが投資活動を行うためにはファンド設立が必要ですが、そのファンドも無事に設立。
大阪大学が手金(と言っても税金ですが・・・)を100億円出資予定、というのは以前から報じられていましたが、最終的には181億1000万円でファンドは設立されたようです。
出資したのは三井住友銀行、みずほ証券、みずほ銀行、三菱UFJキャピタルと池田泉州銀行の5社で、~合計出資額は181億1000万円で、阪大が100億1000万円を拠出。今後も金融機関の出資を募り、年内に130億円を目指す。(15/8/30日本経済新聞)
大阪大学が100億1000万円、金融機関が18億円を出資という内訳。メガバンク3グループと池田泉州銀行で18億円を出資。銀行の体力からすれば訳の無い金額でしょうけど、各銀行ともにグループ内にVC抱えている中、結構な金額の出資となります(内訳不明ですが)。
大阪大学のVCへの期待ともとれますが、お付き合いも大変なのね・・・、とも感じてしまいます。けどお付き合いなら各行1億円程度の出資でよい訳で、その意味で言うと、結構なお金を金融機関からひっぱっており、言い訳できない状況=結果を求められる状況となっています。
大学初ベンチャーは失敗の歴史
国の政策の後押しもあり、大阪大学のベンチャーファンド設立、という流れになっていますが、大学発ベンチャーは失敗の歴史とも言えます。
そもそも誰が考えても、大学の先生に企業経営はできる訳はありません。経営は外部に任せるって、大学の先生は本気でも、海のモノとも山のモノとも判断できない技術に、人生投げ打って経営しようなんて奇特な方は滅多にいませんって。VCが経営のサポート?基本的にはサラリーマンのVCの社員に必要以上のモノは求められません。サポートは確かにできる方もいますが、会社を経営するのは経営者。外部から出来ることは限界があります。
大阪大学と言えばアンジェスMGの成功例が取り上げられますが、アンジェスは元々大学の枠外から出てきたお話。その他、バイオ系は大学初ベンチャーで上場に至っている例も確かにありますが、上場後に事業として確立に至った・・・、という例は殆どないのではなかろうか。
と言うことで、大学発ベンチャー、確かに話題ではありますが、商売という観点、特に投資して儲ける、という観点では非常に苦労している、というのが事実としてあります。2000年代半ば文部科学省の掛け声で各地に設立された大学発ベンチャー、VCも多く投資していましたが(それに至らない会社の方が圧倒的多数でしたが)、全体で見ればVCの採算は割れてますので・・・。
大阪大学のVC、大学発ベンチャーの成功確率アップに期待
ともあれ国立大学初のベンチャーファンド設立。期待感はあります。
大学発ベンチャーは失敗の歴史でありますが、少ないながら成功例もある訳で、今回の大阪大学の取り組みが大学発ベンチャー成功の確率を高める役割には期待したい所。
特にバイオベンチャーは有望なタネがあっても常に資金調達との戦いですし、バイオベンチャーは大学発のケースも多いので、うまく流れを作ることができれば、面白いことになる可能性は有しています。
また今回のファンド、期間が10年+延長5年と、長い期間のファンドであり、じっくりと腰を据えて企業の成長を待つことができるのは、芽が出るまで時間がかかる大学発ベンチャーとしては、安心できます。
大学の技術のタネを、ファンドの資金で事業化して、M&AもしくはIPOで資金を回収、という、もうファンドのプレゼン資料の絵そのままですが、この回転が本当にうまく回るようになると、大学発ベンチャーの世界も一新すると思います。
社外取締役が事業性を見極められるのだろうか・・・
コーポレートガバナス論が盛んな昨今、社外取締役の起用云々が話題となっていますが、大阪大学のVCは社外取締役を含む委員会で事業性を見極めて、投資先を決めるそうです。
上場会社であっても、社外取締役の効果に疑問を有している管理人ですが、ベンチャー投資の目利きを社外取締役に任せてしまって大丈夫なのか、少々不安。
大阪大学のVC、取締役は下記の方です。(敬称語略)
・代表取締役 松見芳男→伊藤忠商事出身
・社外取締役 津田和明→元サントリー副社長
・社外取締役 野村正朗→元りそな銀行頭取
・社外取締役 山田隆持→元NTTドコモ社長
・社外取締役 一村信吾→元産総研副理事長
これだけ豪華なメンバーを社外取締役で揃えられるのは、さすがは大阪大学。ファンド募集に非常に効果を発揮しそうです。
ただしいずれの方もベンチャー投資、という観点では経験は不明。非常に泥くさい、と言われるベンチャー投資、立派なご経歴の方々が本当に判断できるのかどうか、非常に興味深い所です。
間違いなく皆さん非常に優秀な方でしょうが、優秀な人がやっても儲からないケース多数なのが投資の世界。特にベンチャー投資は、ピッカピカな経歴の方がファンド立ち上げても、なかなかうまく行かないケース多数。
日頃実務やベンチャーと関係していない大御所の高所からのご意見は貴重ではありますが、やはり現場を這いずり回る社員の方の活躍に、大阪大学のVCの成否がかかっていると言えるのではないかと。
関西のVC業界も競争が激しい
今回、大阪大学が100億円を超えるVCファンドを設立した訳ですが、意外や意外、関西ってベンチャーキャピタル間の競争が激しい地域。
詳しくは下記に書きましたが、関西ではベンチャーファンドが乱立しています。当然、元からあるVCも存在している訳で、VC間同士の競争が激しそうです。
よい案件にはVCが集まって、株価のつり上げ競争になって・・・、という事態が容易に想像されます。大学のベンチャーファンドなので、若干毛色は違う大阪大学のVCではありますが、いずれにしても案件がザクザクありますわ、という訳にはいかなそうです。
運営の難しいベンチャーファンド、大阪大学のVCはどこまでやれるのか
ベンチャー支援とかベンチャーファンド、掛け声は非常にキレイに聞こえますが、実はファンドで収益あげるの非常に難しい方程式を解く必要があります。
関連記事:ベンチャーファンドは儲からない?非常に難しい方程式
今回の大阪大学のベンチャーファンド、税金だけでなく民間の金融機関の資金まで巻き込んでおり、税金だから・・・、というスタンスで運営すればマズ失敗するでしょう。その意味では民間の資金が入り、本気で運営が求められます。
ファンド運営がうまく行かず、大阪大学の関係者が金融機関に頭下げまくるという図は絵的には面白いのですが、そうなっては欲しくないもの。
果たして大阪大学の設立したベンチャーファンドは、最低でもそこそこのパフォーマンスを上げて、2号ファンド設立へ、ということになるのか。それとも、やはり難しかったか・・・、という結果になり、大学関係者が出資者にお詫び行脚をすることになるのか。
大阪大学のベンチャーファンドの今後の行方、大学発ベンチャーキャピタルの試金石として、今後の行方に注目したいと思います。