かつて日本を代表するオーディオメーカーであったパイオニア<6773>。現在はオーディオ事業は事業売却し、カーナビ専業メーカーとして生き残りを目指しています。
しかしながら業績は安定せず苦戦が続いています。そして2018年9月には遂に香港のファンド(ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア)から資金提供を受けて、ファンド傘下での経営再建を目指すことになりました。
なかなか安定しないパイオニアの状況について、決算の推移を見ながら解説いたします。(2018年10月16日更新)
概要
安定しないパイオニアの決算、オーディオ事業はオンキョーに売却
パイオニアと聞けばオーディオメーカー?いえいえ、既にオーディオ事業は売却済みで、今はカーナビの専業メーカーです。
パイオニアのオーディオはかつてはオーディオマニアに知られた存在でしたが、オーディオ機器の価格下落は著しく、2015年にはオーディオ事業を同業のオンキョーに売却。オーディオ事業の規模感としては、パイオニア>オンキョー、でありパイオニアの思い切った決断には驚かされたものです。
採算が悪化していたオーディオ事業売却でパイオニアの業績が安定したかと言えば、残念ながらそうはうまくいっていません。やはりパイオニアの業績は安定しません。2018年3月期は経常利益で▲31億円の赤字、当期純利益で▲71億円の赤字を計上するに至っています。
利益の出ていたDJ機器事業もファンド(KKR)に売却
パイオニアはオーディオ事業の売却と合わせて、DJ機器事業もファンドであるKKRに売却しています。実はパイオニアのDJ機器は世界的なブランドになっており、利益の出ていた事業。
関連記事:パイオニアがDJ事業を米KKRに売却、人員削減も(ロイター)
広い意味ではDJ機器事業もオーディオ機器な訳ですが、特殊領域でしっかり利益の出ている部門のDJ機器事業まで売却する必要があるのか?、ともったいないなぁ、と個人的には思いました。大型の家電量販店に行くと、パイオニアのDJ機器を販売しているブースがあるくらいなのと、好きな人はホントお金出す世界なので、単体の事業としては相当採算性よかったのではないかと思われます。
さすがKKRはおいしい所を持っていくなぁ、と思ったものです。
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・世界的なブランドになっているパイオニアのDJ機器
パイオニアの決算推移
直近6期分のパイオニアの決算は下記のように推移しています。
13/3期 売上高451,841百万円、経常利益812百万円、当期純利益▲19,552百万円
14/3期 売上高498,051百万円、経常利益5,111百万円、当期純利益531百万円
15/3期 売上高501,676百万円、経常利益▲2,915百万円、当期純利益14,632百万円
16/3期 売上高449,630百万円、経常利益7,250百万円、当期純利益731百万円
17/3期 売上高386,682百万円、経常利益2,966百万円、当期純利益▲5,054百万円
18/3期 売上高365,417百万円、経常利益▲3,121百万円、当期純利益▲7,123百万円
デコボコした決算だなー、というのが第一印象。経常利益が黒字で、特別損益出さずにそのまま着地したことが直近6期ではありません。。。15/3期は経常利益▲30億円にも関わらず当期純利益が146億円なのは、オーディオ事業の売却とDJ機器事業の売却があったため。
尚、19/3期は売上高380,000百万円、営業利益▲5,000百万円の予想であり、当期も決算は安定しない見込み。
かつてオーディオマニア憧れのブランドだったパイオニア、カーナビメーカーとしての再起を果たすには至っていません。
体力は残っているパイオニア
上記で6期分の決算推移を振り返りましたが、過去6期で当期純利益の赤字が3回。累計すると約▲150億円の赤字が積みあがっています。
パイオニアは大丈夫か?、と思ってしまう所ですが、実はまだ体力的には問題ないレベルで残っています。
18/3期の純資産は84,934百万円。負債が202,576百万円存在するので決して楽な状態ではないものの、これまでの安定しない決算に比べると、純資産はまだ約850億円あるので安定していると言えます。
意外に体力残ってるのね・・・、と少々意外感もあったりしますが、そんな訳でパイオニアは赤字が続き余裕はないものの、スグに倒産云々の状態でもありません。
体力のあるうちに業績を安定させられるか、コレがパイオニアの足元の最大の課題ですね。
200円を割れこむパイオニア株価
安定しない業績で来期も赤字の予想のパイオニア、株価もパッとしません。
過去どうにか200円を割れても戻していた株価ですが、今回は160円のレベルにまで下落。
2009年に100円割れしているパイオニア株ですが、その後は150円付近を底に耐えているので、今回の下落も150円を割れこむことなく維持できるかが、株価的な見所となります。
「画像出典:マネックス証券/日本株取引ツール トレードステーション」
しぶといパイオニア、ただし次の展開が見えない・・・
パイオニアの純資産の状況を見ると、しぶとい、という印象です。実はパイオニアって、日本企業のリストラの先駆け的存在で、バブル崩壊後にいち早く人減らしのリストラを行っています。
その後も複数回リストラを経て現在に至っていますが、確かに業績は安定しませんが、過去の蓄積があり、まだ体力が残っています。
ただしカーナビ専業の会社となったものの、見事に自動車市場の波に左右される会社となり、確かにオーディオ機器のように底の見えない価格下落とはおさらばできましたが、それでも業績が安定しません。
確かにカーナビは普及しましたが、今やスマホがカーナビの代わりを果たす時代。家庭用の車はカーナビがほぼ搭載されていますが、会社の営業車なんかは車のダッシュボード付近にスマホを固定して、カーナビアプリ見ながら運転している方多いのでは?
スマホの登場が、色々な市場に影響を与えていますが、カーナビ市場も影響を受けている市場の1つです。パイオニアのカーナビブランド、カロッツェリアのカーナビ、モノはよいけど、オーバースペックなんだよなー、というのが個人的な印象。パイオニアらしい、と言えばらしく、高い機種は最新のテクノロジー満載なのですが、余程のマニアじゃないと買わないよね・・・。ま、それで過去のパイオニアはやってきた訳ですが、車にお金使える人も限られる訳で。ましてやスマホがカーナビの代わりになってしまう時代、パイオニアも大変です。
ただしカーナビ専業の会社になってしまった今、じゃあ次何で稼ぐのか、というのは見えていないのがシンドイ所。その昔、レーザーディスク(LD)、DVD、プラズマディスプレイとオリジナルな製品を持っていたパイオニアですが、足元ではカーナビ意外に有望な製品が見当たりません。
カーナビ自体は無くなることはないと考えられますが、スマホの性能が上がり続けているので、カーナビ市場も縮小が続くと予想され、そう考えると次の一手が見えないパイオニアも、安定しない決算状況から抜け出すの簡単ではないな、と思わざるを得ません。
9月に香港の投資ファンド(ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア)からの資金調達を発表
パイオニアは2018年9月末までに130億円の借入金の返済が迫っており、その資金調達の必要が迫られました。そして最終的に香港の投資ファンドであるベアリング・プライベート・エクイティ・アジアが250億円の融資に加えて、500~600億円の増資引き受けを行う事が決まり、パイオニアは事実上ファンド傘下の企業として存続することになりました。
関連記事:パイオニア、ファンドから600億円出資 上場は維持(朝日新聞デジタル)
パイオニアの上場は維持されますが、年内に予定されている増資の結果、同社はファンドが筆頭株主となる見込みです。そして5~7年の間にファンドの支援を受けて再成長を目指す計画となっています。
ぞちじゃ2013年にパイオニアはベアリング・プライベート・エクイティ・アジアに対しAV事業の売却を表明しましたが、最終的にオンキョーに売却するに至っており、両者は因縁浅からぬ仲にあります。
歴史的に何度もリストラを行い危機を切り抜けてきたパイオニアですが、遂には海外のファンド傘下で経営再建を目指すことになります。かつて音響機器としてはパイオニアより規模の小さかったケンウッドがファンド傘下で経営再建を果たしましたが(ケンウッドのミニコンポ愛用していたので、思い入れのあるメーカーだったんです)、パイオニアもケンウッド同様にファンド傘下で経営再建に成功することができるのでしょうか?
地図事業が今後のパイオニアを救うのか?
オーディオ機器メーカーからカーナビメーカーに脱皮したパイオニアですが、実は虎の子と言うべき事業があります。それが地図事業です。日本で地図事業と言えば、ゼンリンが有名ですが、実はパイオニアも子会社で地図事業を手掛けています。
パイオニアの地図事業はカーナビで培われた事業ではありますが、そもそも地図事業を行っている企業が少ない中で、カーナビで培った様々なテクノロジーを有する事業です。その昔、まだパイオニアが元気だったころ、スマホでカーナビサービスを始めたグーグルを特許侵害で訴えるかも?、みたいな議論があったくらいなので、特許含めたテクノロジーは非常に価値があると言われています。
今や出会い系アプリに搭載されているアプリ上でリアルタイムに特定の人物の位置情報を表示するテクノロジー、実はパイオニアが元祖です。彼らは、出会い系に使われては敵わん、と気付いており自らその技術を封印してしまいましたが、もう少しやりようがあったのではないかな、と思わないでもありません。
既に中国勢がメーカーとしては一大勢力となっており、簡単なモノ作りでは国内メーカーも太刀打ちできません。パイオニアはカーナビに加えて地図を中心とするテクノロジーやサービスで復活する事ができるのでしょうか?
まとめ
日本のオーディオメーカーは正直焼け野原的な状態であり、パイオニアは上記で述べた通り、既にカーナビ専業の会社となっています。ケンウッドは一足先にファンド傘下となり無線中心の会社となって(いまやかつてのビクターと統合してます)ます。そしてパイオニアからオーディオ事業を買収したオンキョーも経営的に苦しい状況となっており、振り返ってみれば20年以上前から言われていたオーディオメーカー冬の時代が見事に到来した状態です。
かつて日本を代表するオーディオメーカーであったパイオニアは復活することができるのでしょうか。一朝一夕で急にどうにかなる訳でもなさそうなので、まったりと注目しようと思います。
・パイオニア株で大きな財産を築いた投資家の売買手法の解説本がコチラの「あなたも株のプロになれる」。こんな投資手法があったのか、と驚かされます。いわゆるうねり取りの売買手法です。数字やロジックに基づいたトレード手法を好むタイプなら(管理人には合いませんでした・・・)、引き込まれるかもしれません。
PSパイオニアも大変ですが、大塚家具はもっと大変そうです。
・3期連続赤字が目前の大塚家具、現預金の余裕がなくなりつつある