シャープの液晶事業の再編等、最近よく耳にする産業革新機構。そんな産業革新機構ってそもそも何?
知っているようで案外知られて産業革新機構。今回は産業革新機構について調べてみました。
景気が悪くなると出番が増える再生ファンド、産業革新機構の出番は今後益々増えそうな予感。
概要
産業革新機構は法律に基づく組織
産業革新機構は実は会社ではりません。法律に基づく組織。〇〇機構って、行政の外部組織に多いのですが(ex.〇〇病院機構等)、位置付はそれらと同じです。
産業革新機構は、産業競争力強化法に基づき2009年7月に設立された組織となっています。そして業務を監督するのは経済産業大臣、そんな訳で経産省が所管しています。
そんな組織背景で投資業務を行っているのが産業革新機構。書いていて気付いたのですが、2009年7月設立ということは設立6年が経過しています。投資ファンドとしては、そろそろ成果が問われるステージに入っています。
そして産業革新機構は2024年までの期限付きの組織。投資した株は基本的に2024年までに売却する必要があります。
産業革新機構の代表者
現在(2015/12/8)時点での産業革新機構の代表者は下記の2名。
代表取締役会長(CEO) 志賀俊之氏
代表取締役社長(COO) 勝又幹英氏
CEOの志賀氏は日産出身で長くカルロス・ゴーン氏の右腕を務められていた方です、最後の役職は日産のCOO・代表取締役。機構の投資先はルネサスエレクトロニクスやジャパンディスプレイ等、大企業との調整が必要になる案件も多い、ということから日産出資の志賀氏が招聘された、と言われています。
一方の勝又氏は日本興業銀行出身でその後、投資ファンドの代表を務めたという投資業務に精通した方となっています。
産業革新機構の業務
産業革新機構は、一般的に官民ファンドと言われています。上記で説明のように法律で作られた組織、そしてその組織で投資活動を行いますが、産業革新機構には一部民間資金も入っていることから官民ファンドと言われています。
ただし政府の出資2,860億円に対し、民間の出資は140.1億円となっており、実質的にはお役所ファンドと言って差し支えない状態。
そして産業革新機構の投資業務は大きく分けて以下の3つに分類することができます。
産業及び企業再生領域
産業革新機構が一番活躍を期待されている分野です。民間同士では決着できない産業であったり企業であったりを、お役所の力を持って話をまとめて再生に繋げてしまう。欧米、特にアメリカだとなんじゃそら、という面もありますが、泣く子と地頭には勝てない、と言われ、お上を立てるカルチャーの残っている日本においては、話をまとめる、という一点に置いて非常に有効に機能する、と考えられています。
ただし、建前としては企業再生ビジネスはしない、ということになっています。基本的に新規産業の創出等に貢献できる企業への投資、が産業革新機構の存在意義となっています。その点、以前にJAL再生を手がけた企業再生支援機構とは全く異なる存在となっています。
よって企業再生型の投資は余程の事情や理由付けができる場合のみ行う、ということにはなっています。
ベンチャー投資
実は産業革新機構が件数としては一番多く手掛けているのはベンチャー投資。民間のVC(ベンチャーキャピタル)が手掛けられない技術開発型の企業や、立ち上げに時間のかかる企業が投資対象、ということになっていますが、民業圧迫との批判が多いのも事実。
最近は民業圧迫の批判もあってか、機構がリード(主導権)を取って民間VCとの共同投資という案件が増えています。
ベンチャーファンドへの出資
民業圧迫の批判を受け、機構自身が民間VCのファンドに出資も行っています。
正直これはやりすぎではないかと・・・。ね、ファンドがファンドに出資してどうするのよ、というのが管理人の感想。ファンド・オブ・ファンド(FOF)というファンドが別のファンドに出資する形のファンドは確かにありますが、それってポートフォリオの運用が大前提という場合が殆どなので、民業圧迫の批判をかわすことが目的とはいえ、それはやりすぎじゃないか、と思います。
ちなみに中小企業基盤整備機構(財務省が所管)で、既に民間VCへのファンド出資は業務の一環として行われており、実績も多数出ています。役所の業務効率化、という観点でも、やりすぎの感があります。
事業会社との共同投資等
いわゆる「その他」という部分。何でもあり、という訳ではありませんが、様々な投資を行っています。
事業会社が1,000億円の投資を行う際に、300億円は機構が出すというのが代表例。事業会社の側からすれば資金負担が少なくすんで、いわゆるレバレッジが効かせられることになりますが、機構側が最後にどんな出口(EXIT=資金回収)を考えているかは、外部からは分かりません。
儲かりそうな案件を手がければ民業圧迫の批判は出ますし、とは言っても仕事しないと存在意義が危ぶまれる。産業及び事業再生に特化すると仕事が少なすぎる、という悩ましい面があり、実は産業再生機構も立場的には微妙な部分があります。
産業革新機構の業績推移
投資ファンドの場合、投資後1~2年は赤字が仮に出ても様子をみましょう、ということが言えますが、さすがに5~6年立つと、そしてその成果の程は?、と成果を求められます。
2009年7月設立の産業革新機構、そんな訳でこれまでの業績推移を探ってみます。
投資ファンドは設立後2~3年は成果が出ないので、赤字先行もやむを得ませんが、産業革新機構は2014/3期に見事に成果を出しています。同期は経常利益で580億円と大成功を収め、そのお陰で累計での損失も一気に黒字化。税金も220億円払い、見事な成果。
2014/3期の成功は、要はジャパンディスプレイ(JDI)の上場が成功しました、と言うこと。しかし後述しますが、確かに機構の関係者にとってはヨカッタヨカッタ、というJDIの上場ですが、一般個人投資家という観点では非常に複雑な思いのある結果となっています。
ただし、JDIで積上げた利益も、当期純利益ベースだと、当期(2016/3期)に成果が出ないと、年間80~90億円ベースで赤字の機構からすると、当期でほぼ食い潰してしまうことになります。
機構としては、実は当期は正念場と言えます。
ま、だからルネサスの株を既存株主に買ってくれませんか、とやっているのだと思いますが。詳しくは下記をどうぞ。ね、数字を見ると、意外に事実という点が数字を介して繋がって、これまで見えなかった絵が見えて来るでしょ。ここが企業の数字分析の面白い所です。
産業革新機構の課題
産業革新機構の課題で一番先に取り上げられるのは、民業圧迫、という批判。まぁ、VC投資という観点では、その通りだと思います。日本でもベンチャーキャピタルという会社が産声を上げたのが1970年代なので、ジャフコ始め日本にもVCは多数存在しています。
長期資金という観点で民間のVCのできない部分を・・・、という大義名分は確かに通らなくはありませんが、逆に言えば民間のVCが経済合理性的に手掛けられない投資をする訳で、それってファンド、という観点からは、逆に変なリスク取らんでも・・・、と思います。
一方で、産業や企業再生という観点では、泣く子と地頭には勝てない、というカルチャーが強く残る日本、役所のファンドとも言える産業革新機構が交通整理をして再生を果たす、というのは、一理ある、と思います。
と、一般的に言われる機構の課題は既に言われ尽くしているので、管理人が思う産業革新機構の課題、それは出口の設計が甘い、と言う点。
ファンド商売は、買った株を売り切って初めて評価されます。
いくら投資先企業の企業価値や株価が上がっても、売れなかったら所詮は絵に描いた餅。機構はこの絵に描いた餅を、実物の餅にするのが苦手というか、しっかり実物の餅にして食べる、というこ所まで詰めていないケースが多いのではないかと。
上記に上げたルネサスがその代表例。極端な話、投資は誰でもできます、けど回収まで出来る人は少ないんだななコレが。まぁ、株やFXの投資でも同じですが。
産業革新機構の場合、公的な性格もあり、入口で結構無理な絵を描かざるを得ないケースが多いと推察され、その結果、企業の再生はうまくいったが、機構としての出口が詰まっている・・・、という状況ではないかと。
その意味では機構も、ご苦労様、と思わないでもないのですが、機構も最後は解散する必要があるので、どこかのタイミングで強硬論であろうと何であろうと持っている株を売却の必要があります。
ついでに言うとお尻=期限が近くなればなるほど当然足元を見られます。その意味では売れるのであればEXIT=売却は可能な限り早く、が投資ファンドのセオリーではあります。
ジャパンディスプレイ上場の賛否
既に決算で見たように産業革新機構は2014/3期のジャパンディスプレイ上場の成功によって、成果を得た形になっています。
ただしコレは個人投資家の犠牲の上に成り立っている面が大。
どういうことかと言えば、ジャパンディスプレイ(JDI)は2014年3月に上場し、4月に第一回の業績下方修正、そして10月に更なる業績下方修正→大幅な赤字化を発表。完全にやらかしています。
普通の会社でも大きな非難を浴びますが、JDIは官民ファンドの産業革新機構が支援して大株主だった会社。機構は知っていたのでは?、という話になるのは当然で、実際どうかは分かりませんが、機構は見事に売り逃げた形になっています。
ファンド運営という観点では、正直よくやった、と管理人も思いますが、役所系のファンドがそれをやってどうする!犠牲になったの個人投資家でっせ。
ついでに言えば役所系のファンドでこーいうことをすると、民間のファンドまで白眼視されかねないので、コレも一種の民業圧迫だよなぁ、と思います。
まぁ儲けてナンボの民間ファンドと違い、色々と制約のある機構、正直運営の苦労はお察ししますが、JDIの一件は結果論的にどうかなぁ、と思います。仮に下方修正の可能性を機構が知っていてJDIの上場を止めていたら、それはそれで今頃機構の存在意義とは?、的な議論になっていたでしょうけど。
けどいずれにしても、個人投資家に損させて産業革新機構がえらく儲けたという事実、重い十字架だと思います。
JDIの日足チャート、第一回の下方修正、水色部分以降の下落がヒドイ
これからが正念場の産業革新機構
JDIで儲かったはいいが、やらかしてしまった感のある産業革新機構。これからが本当の正念場。
ルネサスのEXITをどうするのか、という問題もあるし、JDIだって今に至るまで大株主として支援中。JDIは大口顧客のアップルが有機ELパネルを今後採用する、と発表しており、本当にドカンと設備投資して有機ELに突っ込むかどうか、非常に悩ましい判断を迫られます。
そしてもう目前に控えているのがシャープの支援。ま、まだ事実としては何も決まっていませんが、ここまで色々と情報が出てコレバ既に機構ありきで話は進んでいると考えられます。
ついでに言えば、下手すると東芝も機構でお願い、という事態も考えられます・・・。何せ原子力事業を手掛けている東芝、本当に支援が必要となった場合、東京電力と同じく民間では面倒見ることができません・・・。
日産だってお世話になる可能性が
これは管理人の妄想に近いのですが、日産だって産業革新機構のお世話になる可能性があります。
現在、日産の実質親会社のルノーがフランス政府と企業統治(要はフランス政府がルノーと日産の経営に口を出したい)ついて大揉めに揉めていますが、これって簡単に言えば、日産がルノーから独立してしまえば日産側からすれば問題ない訳です。
じゃぁ日産がルノーから独立するための資金どうするよ、となった時、機構が充分支援できます。外資系になってしまった日産を日本に取り返す、と言えば、これ以上ない大義名分も立ちますし。
更に現在の機構の代表は元日産COOでゴーン氏の右腕だった志賀氏。こう考えると、何だかすでに下絵は描かれているような気がしてきますが、ハテサテ。
まとめ
景気が悪くなると出番の多くなる再生ファンド。足元の日本経済、政府は一生懸命何とかピークを維持しようと努力していますが、さすがに遅かれ早かれピークアウトしていくと考えられます。そんな訳で今後、産業革新機構の出番は益々増えるのではないかと。
お上の意識が依然として強く残る日本で、お上のファンドを使って事業再生や企業再生の交通整理をするのは、「あり」と思っており、単純な民業圧迫批判の立場は取りませんが、結果的とは言え、JDIの一件のような個人投資家を犠牲にするようなことは、2度とやって欲しくないと思います。
産業革新機構がシャープを支援、という発表が刻一刻と近づいる感がしますが、産業革新機構の動向は、企業再生や業界再編のネタの宝庫なので、今後もその動向に注目して行こうと思います。
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