産業革新機構のルネサス株の売却が容易に進まない簡単な理由

 東日本大震災の影響で経営危機に陥ったと言われているルネサスエレクトロニクス(東証1部6723)。その後、産業革新機構や事業会社からの出資を仰ぎ黒字化し、経営再建に目途。
 そしてここに来て、産業革新機構がルネサスの株式売却=EXITを行うべく、トヨタ他の事業会社に株式売却の提案を行っている様子。しかしことは、こう簡単に進みそうにはありません。理由は簡単で、ルネサスの株を追加取得する理由が無いから。
 ファンドは株を売却して利益を確定して初めて評価される訳ですが、果たして産業革新機構はルネサスの株をどんな形で売却することになるのか、注目です。(2016年2月18日更新)

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経営再建に成功したルネサス

 東日本大震災の影響で経営危機に陥った、と言われているルネサスエレクトロニクス。しかしながら、実は東日本大震災は経営危機に陥る最後の一押しで、東日本大震災が無くとも遅かれ早かれ似たような状態に陥っていた可能性は高い会社でした。

 そんなルネサスですが、東日本大震災の被災の後、産業革新機構や事業会社に出資を仰ぎ、復興の意味合いも含め、国策的に再生に向け歩んできました。そんなルネサスの直近の業績は下記の様になっています。

15.11.24ルネサスエレクトロニクス業績推移-min

 見事に業績はV字回復となっています。取引先が株主になって物心両面で支援したとは言え、産業革新機構の面目躍如、と言った所でありましょう。

 尚、産業革新機構については別途下記で詳しく解説していますので、ご参考ください。

ルネサスの株価推移

 業績回復を成し遂げたルネサスですが、そんなルネサスの過去5年の株価推移は下記の様になっています。

15.11.24ルネサス-株価推移-min

 アベノミクス相場の恩恵もあるとは言え、株価も見事に復活を遂げたルネサス。産業革新機構やトヨタといった、ルネサスの再生に当り出資した企業は株価@120円で出資しており、現在は大幅な含み益をルネサス株で抱えている状態。2015年11月はルネサスの株価は700円前後をウロウロしており、ザックリ言って株価は約5倍強になっています。

 正直な所、産業革新機構と言わず、同じタイミングで出資した事業会社も、このタイミングでルネサスの株を売りたい、と思っているのは間違いないかと。

2年で5倍強の倍率なら株を売りたいのは当たり前

 ファンドは4~5年で投資式の回収を図るのが一般的。しかしルネサスに限って言えば、2013年9月に株価120円で増資を引き受けた先は、約2年で株価が5倍強になっている計算。

 これって実はトンデモナイ倍率。通常のファンドの管理者であれば、即刻全株を売却して利益を確定させたいレベル。

 産業革新機構がルネサスの株を売却=EXITしたいと思うのは道理ですし、同じタイミングで出資した事業会社にしても、既に再生のステージを終えたルネサスの株、手放す機会があれば手放したいと思うのは道理。

 そんな訳で、ルネサスの株は@120円で引き受けた方々は、皆が皆売りたがっている状態と言えるかと。ま、さすがに国策で再生を行ったルネサス、抜け駆けで売却するような会社はなさそうですが。

ケーヒンがルネサス株を全株売却

 トヨタ他とルネサスに共同出資したホンダ系の部品メーカーであるケーヒン(7251)が、保有していたルネサス株の一部を売却したようです。

ケーヒンは17日、保有する有価証券1銘柄を売却して36億円の特別利益を2016年3月期の単独決算で計上すると発表した。売却したのはルネサスエレクトロニクス株とみられる。(2016/2/18日本経済新聞)

 ケーヒンのIRを見ると、有価証券1銘柄の名前は出ていませんが、状況から察するに日経が指摘しているようにルネサス株と推察されます。

「投資有価証券売却に伴う損益の計上に関するお知らせ」(ケーヒンのIR)

 業績の悪化に伴い人員削減のリストラを実行したケーヒンにとって、再生がなされたルネサスの株をこれ以上そのまま継続保有する理由はない、ということでしょう。
 
 ケーヒンはリストラ状態、というやむを得ない事情があるにせよ、今後ルネサス株を売却する会社が続くのか?非常に興味深い所です。いずこの会社も再生が完了したルネサス株、売れるものなら売ってしまいたい、と思っているハズなので。

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ルネサスの株を追加取得する合理的理由が全くない事業会社

 既存株主が皆売りたがっていると推察されるルネサス株、そんな中で、既存株主が産業革新機構の株を追加取得する理由は何もありません。

 最初の第一歩は、自社の部品供給に懸念がある+東日本大震災の復興支援、という大義名分のあったルネサスの増資引き受けですが、再生に目処がついたので産業革新機構が株を売りたい→じゃぁ追加で株を引き受けましょ、とはなりません。

 持ち合い解消から始まって、株の出資に合理的理由が求められる昨今、M&Aする訳でもない取引先の株を取得する理由、自社の株主にどうやって説明するのか、少なくとも管理人にはウマイ理由が見つけられません。
 財務担当という現場からすれば、稟議書の書きようがない、という状況かと。

 ま、担当云々の話は、トップが決断さえしてくれれば何とかしますが、産業革新機構から株を引き取って、と言われたとはいえ、じゃぁ一方で自社の株主への説明責任を考えると規模も規模ですし(100億円単位になってきます)、オイソレと”ハイ分かりました”、とは言えません。

 ちなみにルネサスの時価総額は約1.2兆円。1%の出資で約120億円が必要になります。たかだか1%の出資で120億円が必要になるルネサス、余程取引上のメリットがないと、株は取れません。取引上のメリット=ルネサスにとっては利益の圧迫要因になるため、事はそう簡単に進みません。

ルネサスの株主、個別の事情

 基本的には非常に難しいと考えられる、既存株主による産業革新機構保有株の引取り、個別の既存株主の事情も合わせて考えてみました。

 尚、ルネサスの主要株主は下記の構成になっています。

産業革新機構69.15%
日立製作所7.66%
三菱電機6.26%
トヨタ自動車2.49%
NEC0.75%
デンソー0.49%
キャノン0.24%
パナソニック0.24%

日立製作所・三菱電機・NEC

 元々ルネサスは日立製作所・三菱電機・NECの半導体部門を切り出して設立した会社。一番苦しい時は何とか助けましたが、基本的に切り離した会社なので、再度株主シェアを上げるのは選択肢としては無い、と考えられます。

トヨタ自動車とデンソー

 
 恐らく産業革新機構からすれば、ルネサス株の売却先の大本命はトヨタ自動車。
 産業報国、というトヨタ哲学もあり前回のルネサスの増資引受はトヨタの哲学と合致しますが(大口取引先でもありますし)、既に再生がなされたルネサスに追加出資する理由について「なぜ」を5回繰り返して、答えられるかどうか?
 基本的にトヨタは財布のひもの固い会社でもあり、そう簡単に事は進まないと考えられます。
 尚、デンソーはトタヨに右に倣えと考えられます。

キャノン

 合理主義的経営で鳴らすキャノン。追加出資ともなれば、その合理的理由が問われます。合理的には、ルネサスの再生は終わった→お付き合い終了、と言うことで、ルネサスの株をもう売ってもいいですか?、と逆に機構が言われそうな・・・。

パナソニック

 プラズマディスプレイからの撤退等のリストラに追われていたパナソニックですが、完全復活。しかしリストラの過程で取引先の株を売りまくっており、ここで再度取引先の株を取得というのは、相当ハードルが高いのでは?

 ルネサスに最初の出資の際は、自らのビジネスが回らなくなる可能性がある+東北復興の為、という大義名分がありましたが、追加出資となると正直合理的理由に欠きます。
 ルネサスをM&Aする、ということであれば話は変わりますが、このご時世に半導体会社を買いたいと思う、国内企業はないでしょう。外資系は非常にルネサスに興味を持っているようですが、国益も考える必要がある産業革新機構がルネサスを外資に売却する、という判断は取れません。

 こう考えると、産業革新機構のルネサス株の売却、一筋縄でいくとは思えません。

ソニー

 産業革新機構がソニーに対してルネサス株の売却を打診、と報じられています。

「産業革新機構、ルネサス株をソニーへ売却検討」(2015/1/6東京新聞)

 業績回復に目途が立ち、半導体投資に積極的なソニー。そこに目を付けたのが産業革新機構ということではないかと。

 ただしルネサスはマイコンというお客さんの要望を聞いて受託開発型でオーダーメードで半導体を作るのに対して、ソニーは自社製品の半導体を作って
他社に販売するモデル。
 同じ半導体でも、やっていることが180度とまでは言いませんが90度くらい違います。そもそも基本的に自社製品を、どうだ!、という感じで売るのが得意なソニーが、お客さんの要望聞きながら・・・、というルネサスの受託モデルはカラーに合わないのでは?
 ただしルネサスは自動車業界に強いので、ルネサスを買うことで自動車業界に半導体で食い込む、という判断をソニーがすれば可能性は有ります。けどそれができるなら、自動車業界に注力中の日立がルネサスの買い戻しを先にしているような。

 個人的にはどうしても、ソニーのカラーとルネサスのカラーが合うようには思えません・・・。
 

本気でルネサス株を売却するなら売出しかないが・・・

 国策会社とも言える産業革新機構。ルネサス株の売却を考えた場合、一番合理的なのは保有株を売出で売却すること。さすがに1回では無理でも、数回に分けて売却すれば十分可能です。

 ただしルネサスは日立・三菱・NECという親会社3社の支援、その後は産業革新機構の支援があってここまで来た歴史+半導体は市況産業という側面を考えると、ルネサスを完全に独立させると言う判断は、産業革新機構はもとよりルネサス自身も容易に下せないのでは?

 マイコンという手間はかかれど利益が出ない半導体を開発しているルネサス、再生は果たしましたが、今後このままの調子で行くかどうかは分からない面も多分にあります。
 そう考えると逆説的に、現在はルネサス株の絶好の売却チャンスだったりもするんです。

ルネサスの遠藤会長兼CEOが半年で辞任

 ルネサスの今後を巡って、経営は混乱しているようです。代表取締役会長兼CEOの遠藤隆雄氏が辞任。CEO就任半年での退任となりました。

「ルネサス遠藤会長が辞任、就任わずか半年」(日経テクノロジー)

 半年で退任ということは、当然何かがあったんだろうなぁ、と考えられる訳ですが、日経新聞には下記の記事が。

「ルネサス、遠藤CEOが辞任 革新機構と対立か」(日本経済新聞)

 遠藤氏はドイツのライバル会社とも言えるインフォニオンとの提携等による成長を目指したのに対し、産業革新機構側は国内志向でやってくれ、ということで、路線対立があったのでは?、と日経は伝えています。

 ただしルネサスの日々の業務オペレーションは社内の人員で何も変わらずに進んで行くのでしょう、遠藤氏はとは言っても就任半年しかたっていなかった訳なので。

 実は12月22日の日経新聞に遠藤氏のインタビューが乗っていて、大胆な発言するなぁ、と思っていたら、その3日後には辞任となっています。

(遠藤会長は)M&Aに6000億円を投じる用意がある、と話し・・・。ルネサス主体のM&Aによって成長戦略を描くことについて遠藤会長は革新機構に対し「成長戦略に沿うM&Aを支援してほしい」と呼びかけているとした。(日本経済新聞2015/12/22)

 M&Aに6000億円投じることができる会社だったらルネサスも革新機構のお世話になってないって・・・、というのが第一印象。もう完全にEXIT=株式売却モードの機構が、成長戦略に沿うM&Aを支援する訳ないよね・・・、と思っていたら、遠藤氏は辞任。
 
 遠藤氏としては、IBM常務→日本オラクル社長で磨いた経営手腕を発揮したかったのでしょうが、ルネサスの保護者たる産業革新機構は、そんなことしなくていいから・・・、というのが構図では。けどその遠藤氏を引っ張ってきたの機構だよね。。。

 産業革新機構としては粛々とEXIT=株式の売却に向けて進んで行くのだろうと思いますが、今回のような内部のゴタゴタが片付いても、やはりトヨタ始め相手はそう簡単にはルネサス株を買ってはくれないと思われます。

まとめ、ファンドは利益を確定して初めて評価される

 個人投資家もファンドも一緒で、株を買うのは簡単ですが、一番難しいのは利益を確定させること。
 個人の場合は株価が上がれば、あとはタイミングの問題ですが、株を大量に買うファンドの場合、その量が多いので株式市場で売り切るのは難しく、自ら売却先を探す等の工夫が必要となります。

 ルネサスは株価上昇により、産業革新機構とすれば再生は極めて順調に進んでいますが、問題は本当に利益が確定できるかどうか。
 客観的に見て、既存株主の追加出資は相当難度が高いと考えられるので、じゃあ機構はどんな形でルネサス株の売却を行っていくのか?

 含み益で飲んではいけない、という相場格言がありますが、産業革新機構にとってのルネサス株は未だ含み益。果たして機構はどんな方法でルネサス株の利益確定をさせるのか?見事にルネサス株で勝利の祝杯を挙げることができるのか?
 
 今後に注目です。

PS 何と日本電産がルネサスの買収を検討していたようです!

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